仲間呼び
パンドラは馬車から飛び降りると銀色のムチを地面に叩きつけ「さあ、かかってきなっ」とガーゴイルを挑発した。
ガーゴイルはパンドラめがけて襲い掛かっていく。
すごい速さで滑空しながら剣を振り下ろした。
だがパンドラは後ろに飛び退き剣をよけると、ムチを一振りガーゴイルに浴びせる。
「グエッ!?」
ガーゴイルは奇声を発し、一旦空中に逃れパンドラから距離をとった。
「どうした、もう戦意喪失かいっ?」
空を見上げ余裕の表情を見せるパンドラ。
上空からパンドラを睨みつけるガーゴイル。
ここまでは前回とほとんど同じ状況だ。
唯一違うのは俺が檻の中に入れられていないということだ。
今なら隙をついて逃げられる。
『ナナオさん。もしかしてまた逃げるつもりですか?』
女神が俺の頭の中に喋りかけてきた。
前回はここで逃げ出してスライムに殺された。同じ轍は踏まない。
スライムの体の中で溺死なんて二度とごめんだからな。
とはいえ、このままだとゴリラ女の所有物としての人生が待っている。
それもごめん被る。
どうする俺?
「グエエッ!」
考えがまとまらずにいるとガーゴイルが鳴き声を上げながら上空を旋回し始めた。
ぐるぐると大きな円を描くように空中を飛び回る。
女神、あいつは何をしているんだ?
『仲間を呼んでいるのでしょう。ガーゴイルは強い敵に出会った時に仲間を呼ぶ習性がありますから。もちろんそのようにわたくしが設定したのですけれど』
すると女神の言葉通り二体のガーゴイルがどこからともなく飛んで来た。
ガーゴイルは合計三体となった。
「おっと、これは少々面倒なことになったかな」
パンドラは三体に増えたガーゴイルたちを見上げながら言う。
次の瞬間、三体のガーゴイルが時間差でパンドラめがけ向かってきた。
それぞれが手に持った剣を振り下ろす。
一撃目、二撃目とこれをかわしたパンドラだったが三匹目の剣先がパンドラの腕をかすめた。
血が飛び散る。
ガーゴイルたちは追撃はせずにパンドラのムチが届かない上空に再び舞い上がった。
「くっ……モンスターのくせにしっかり連携が取れてるじゃないか」
パンドラは腕から血を流しながらも口元には笑みを浮かべている。
おいおい、もしかしてピンチなのかこれ?
「……おい、女神。聞いてるか?」
『はい。聞いていますよ』
「俺は次、ガーゴイルたちがパンドラに襲い掛かったら逃げようと思う」
『え……また逃げるのですか? 女性を置き去りにして?』
女神の呆れたような声が届く。
「しょうがないだろ。俺のレベルは1でガーゴイルは、えーっとたしか……」
『レベル208です』
「だろっ。勝てるわけねぇじゃねぇかっ」
お前の無茶苦茶なステータス設定のせいで俺はスライムにも勝てないんだからなっ。
『逃げてどうするんです? またスライムに出会ったら殺されますよ』
さっきは弱い相手だと思って油断していただけだ。
「今度はスライムに会ったら速攻で逃げてやるさ」
『そんな堂々と言われましても』
情けないが仕方ない。
今の俺は最弱モンスターのスライムより弱いんだ。
そこへ「グエエッ!」とガーゴイルたちが再度パンドラめがけ襲い掛かった。
今だっ!
俺は前回とは反対方向の森の奥に向かって駆けだした。
「あっ、ナナオ待てっ……」
後ろから聞こえるパンドラの声を無視して俺は全力で走る。
振り返ることなく息の続く限り走り続けた。
途中、木の枝で顔を切ってしまったがそれでもお構いなしに走った。
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