二周目のガーゴイル
馬車はあぜ道を進んでいた。
時折馬車が大きく揺れる。
「実は仕事を冒険者に鞍替えしようかと思っていてね」
とパンドラは切り出した。
「だが冒険者になるにはパーティーに最低でも一人男がいないと登録できないんだよ。誰が決めたのかわからないふざけた法律さ」
それもくそ女神が決めたんだろうよ。
『わたくしはそんな法律は作っていませんよ』
と頭の中に響く女神の声。
おい、勝手に俺の心を読むなっ。
『わたくしは一次的にその世界を創っただけでそこに住む人間やモンスターの行動すべてに関与しているわけではありませんから』
なんだ、それ。どういうことだ?
言うならもっと詳しく説明してくれ。
『例えばそこにいるパンドラのレベルやステータス、性格などはわたくしが設定しましたけどこれからどう行動するかはわたくしにもわかりません』
と女神は俺に説明するが……。
う~ん。
要はAIが自分で学習して勝手に動くようなものか……。
「おいナナオ、聞いてるのか?」
気付くとパンドラの顔が目の前にあった。
「んっ……お、おう」
「そこであたしはナナオをパーティーのメンバーに入れようと思っているのさ」
「あーそうかい、でも残念だったな。俺のレベルは1だ。お前の仲間になっても足手まといになるだけだぞ」
パンドラのレベルは200以上だったはず。俺と組むメリットなどない。
「そういうわけだから俺のことは見逃してくれないか。お前が奴隷商人をやめるならちょうどいいだろ」
「駄目だね。さっきも言ったがあんたはあたしの物なんだからな。もし自由になりたいんだったら十万マルク今すぐ払いな」
パンドラは手綱をぐっと強く握りしめた。
馬車は森の中へと入っていくところだった。
「あ、おい、パンドラ。この先はガーゴイルが出るんじゃないか?」
「ガーゴイル? そんなレアモンスターには滅多に遭遇しないから平気だよ。心配するな」
「いや、そうは言ってもなぁ……」
さっきはこの先の森でガーゴイルに襲われたんだぞ。
「もし出てもあたしのレベルは264だからガーゴイルだって目じゃないさ」
そう言うと森の中へと馬車を走らせる。
俺は隣に座るパンドラの顔を横目で盗み見た。
年は三十前後だろうか、ゴリラみたいなごつい筋肉質の体に似合わずよく見ると整った顔立ちをしている。
シルエットこそ大男のそれだが、顔だけなら外国のモデルみたいだ。
「あたしの顔に何かついてるかい?」
「い、いや、別に」
「ふっ。あたしの顔が見たけりゃこれから好きなだけ見れるさ。あたしたちは冒険者仲間になるんだからね」
「だから俺はお前の仲間になんか――」
その時、前を走る馬たちが一斉にいなないた。
パンドラは手綱を強く引き馬車を止める。
「うおっ!?」
馬車の前座席からつんのめりそうになったところをパンドラが手で押さえてくれた。
「大丈夫かい? ナナオ」
「ああ、悪い」
「それよりナナオ、あんたの言った通りになったな」
パンドラはあごをしゃくる。
俺は空を見上げた。
そこには剣を持つガーゴイルの姿があった。
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