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二周目

『ナナオさん、何か問題はありませんか?』

落ち着いた口調で話す女神の声が頭の中に届いてくる。


俺は立ち上がると宙に向かって声を上げた。

「ねぇよ。今さっきスライムに殺されたことを除けばだがなっ!」

『もしかして怒っていますか? わたくしが言った通り死んでも最初からやり直すことが出来たでしょう?』

「俺は溺死したんだっ。すげー苦しかったんだぞっ!」

『それはナナオさんがパンドラから逃げたりするからですよ』

「いや違うね! お前がスライムを異常なくらい強く作ったせいだっ!」

『お言葉ですがスライムはその世界では最弱モンスターですよ』

「俺の攻撃が全然効かなかったじゃないかよっ。あっさり殺されたぞ俺っ。どうすんだこの先、俺はスライムすら倒せないのにどうやってレベルを上げたらいいんだよっ!」


「ねぇ、おじさん。さっきからお空に向かって何を言っているの?」

風船を持った少女が俺を見上げていた。


「俺はおじさんじゃない、お兄さんだ。ちょっとあっち行っててくれ」

しっしっと少女を追い払う。俺は今生きるか死ぬかの大事な話をしているんだからな。


すると少女は「うっうっ……」と目に涙を浮かべてから「うわ~ん!」と猛烈な勢いで泣き出した。

風船が空に飛んでいく。


「こらちょっと、泣くな。泣かないでくれっ」

「うわ~ん!!」

この少女の泣き声を聞きつけたのか警官が駆けつけてきて、

「この変態不審者めっ、逮捕だっ!」

と俺を地面に押し倒し後ろ手に手錠をかけた。


「待ってくれ、俺は変態じゃないし不審者でもないっ! 全部女神が悪いんだっ!」

「女神だとっ? 何言ってる、この変態不審者がっ!」


話は聞き入れてもらえず俺はさっきと同じく全裸で警察署に連行され、そのまま地下牢に入れられてしまった。


強面の看守が鉄格子の隙間から俺を無遠慮な目でじろじろと覗いてくる。

こいつはさっき俺をパンドラに売り飛ばした悪徳看守だ。


ここまでは一周目と同じ状況。だとしたら次に現れるのは……。


その時、カツンカツンと階段を下りてくるハイヒールの音が聞こえてきた。


「やっぱり……」

奴隷商人パンドラが俺の目の前に立った。

露出度の高い服を纏いムチを持つその姿はハリウッド映画から飛び出てきたような華々しさがある。

「パンドラ」


するとパンドラは目を見開いて、

「おや、あんたあたしのことを知ってるのか?」

俺を見下ろす。

ハイヒールを履いていなくてもこの女は俺よりかなり背が高い。


「ああ、奴隷商人パンドラだろ。俺を三万マルクで奴隷として買い上げに来たってとこだよな」

「ふっ。面白いなあんた……そうしようと思っていたんだが気が変わったよ」

言うなりパンドラは看守に目を向けた。

「こいつ十万マルクでもらうよ。とっときな」

札束を看守の胸に叩きつける。


「おっ、いいのかよ。こんな奴に十万とは相変わらず景気のいいこったな」

「いいからさっさとこいつを出してやりな。そんであんたはこいつを着な」

パンドラは看守にそう指図した後、鉄格子の間から俺に麻の服を投げてよこした。


「ほら出られるぜ。パンドラのお眼鏡にかなってお前も運がよかったな。いや、悪かった……かな。まあオレにはどうでもいいことだがな」

値段こそ違ったが俺はまたもパンドラに買われた。

そして檻から出された俺は警察署をあとにしたのだった。



「何してんだい?」

「いってぇ!」

警察署の前に止めてあった馬車の荷台に乗りこもうとするとパンドラが俺の肩を掴む。女のくせにゴリラみたいに力が強い。


「ったく。ここに入ろうとしただけだ……」

俺は荷台の檻を指差した。檻の中には奴隷たちが隅の方で身を寄せ合っている。


「違う、あんたはこっちだよ」

「あっ、おいっ、放せっ……」

パンドラは俺の体を軽々と持ち上げると馬車の前座席にどすんと下ろした。

「痛っ」

そしてパンドラ自身も俺の隣に腰を下ろす。


「おい、どういうことだ? 俺は奴隷としてお前に買われたんじゃないのか?」

俺の隣に座るパンドラに顔を向けると、

「買ったことは買ったが奴隷としてじゃない」

とパンドラが返す。


「にしては奴隷みたいな服を着せられてるんだがな」

俺は麻で出来た服をこれみよがしに引っ張ってみせた。

「あー、悪いね。手近な服はそれしか持ってなかったんだよ。後でちゃんとしたのを買ってやるさ」

笑顔を俺に向けてくる。

やけに親切で逆に不安になる。


「あんた名前は?」

「……ナナオだ」

「へー、ナナオか。変わった名前だな」

お前よりましだ。


「ナナオ。あたしは金はあるし人脈も人望もあるつもりだ。だがこと男運には恵まれてなくてね」

「……何が言いたいんだ?」

身の上話でもするつもりか。


「あんたはあたし好みのいい面構えをしている」

言いながら手綱を持つ手を持ち替えて、もう片方の手で俺のあごをくいっと持ち上げる。

「おい、触んな」

「あんたはあたしが買ったんだ。所有権はあたしにあるんだよ」

「知るかっ」


お前が勝手に悪徳看守に金を払っただけで俺にはなんの関係もないんだからな。

お読みいただいてありがとうございました!

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