馬車に揺られて
「ほら、早く乗んな」
「おっとと……わかったから押すなって」
奴隷商人パンドラに連れられ牢を出た俺は警察署の前に止めてあった馬車の荷台に無理矢理乗せられた。
「ふっ、活きがよくてあたし好みだけど少しの間ここでおとなしくしてるんだよっ」
パンドラが俺に顔を近づけ鉄格子越しに言う。
場所が変わっただけで結局はまた檻の中だ。
「さあ、出発するよっ!」
パンドラのかけ声を合図にゆっくりと動き出した馬車の荷台には俺の他にも麻の服を着た数人の男女が乗っていた。
みんな奴隷だろう、うなだれた様子で隅の方に座り新入りの俺のことなど誰も見ようとはしない。
女神が創造したというこの世界、アナザーワールドはゲームやアニメで見るようないかにも異世界チックな雰囲気を醸し出していたが、さっきまでいた警察署のようにところどころ現実味もあるというよくわからないつくりになっていた。
「あの女神、初めて世界を創ったとか言ってたからな……」
まともな世界であることを期待するが、しょっぱなからこれだから正直不安しかない。
っと、そういえば女神の奴、トイレに行くとか言ったきりもうだいぶ経つが未だに連絡がないな。
『お待たせしましたナナオさん、こちら女神です』
突然頭の中に響く女神の声。
「あっ、てめぇくそ女神っ。今まで何してやがったっ」
俺は周りの奴隷などお構いなしに宙に向かって叫ぶ。馬のひづめと馬車のガラガラという車輪の音で前に座るパンドラには聞こえないはずだ。
『わたくしお手洗いに行くと言いましたよね。女性のお手洗いは時間がかかるものなのですよ』
にしたってかかり過ぎだ。
俺が奴隷商人に買われてる時にうんこでもしてたんじゃないだろうな。
『わたくし相手の心が読めるとも言いましたよね。ナナオさんの低俗な思考も読めているのですよ』
しまった。
「うんこうんぬんは謝る、悪い。でも状況がどんどん悪くなってく一方で俺も焦ってるんだよ」
『わたくし別に怒っているわけではありませんから謝らなくてもいいですよ。それよりその辺りの森にはモンスターが出ますから注意してくださいね』
「なっ!?」
モンスターだって!?
周りをよく見ると確かに馬車はいつの間にか森の中を走っていた。
「モンスターが出るなんて聞いてないぞっ」
『すみません。しかし友人の女神たちが異世界を創るならモンスターは必須だと言うものですからその世界を創る時にモンスターも作成しておきました』
「余計なことを……」
異世界をゲーム感覚で創りやがって。
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