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楽しくなってきた異世界

マックスウェル家をあとにした俺たちはとりあえず今日は別れることにした。


「じゃあわたしはチビたちんとこ戻るから。あっそうそうお土産ありがとね、ナナオ」

寿司の詰め檻を持って帰っていくキャット。


「では私も教会に戻りたいと思います。今日はお昼ごちそうさまでしたナナオ様……それとさっきはありがとうございました」

そう言ってマリアも帰宅の途についた。


「ナナオはどうするんだ? 寝泊まりするとこはあるのか?」

とパンドラが訊いてくる。


「いや。昨日は公園で野宿した」

「はっはっは。あんたはやっぱり変わった奴だな。どうだ、今夜はあたしのとこに泊まっていくか?」

「お前のとこにか?」

「大丈夫、襲ったりしないさ」

「はっはっはっ」と豪快に笑うパンドラ。


「依頼の報酬の残りがまだ十万以上あるから宿屋でも探すよ」

「そうか。あたしは大体酒場にいるから冒険に行きたくなったら声をかけてくれ」

「ああ、わかった」

「じゃあな」

俺はパンドラと別れると町の宿屋を探し歩いた。


「お前が創った世界にも慣れてきたよ。レベルもMAXになったしこの世界のこと楽しめそうな気がしてきた」

『ふーん、それはよかったですね』

「なんだよ、あんまり嬉しそうじゃないじゃないか」

『わたくし後悔しているのです。ナナオさんにはやはりレベルアップボタンの存在を教えるべきではなかったと』

「なんでだよ。そのおかげで俺は強くなれたんだぞ」

スライムさえ倒せなかった時とは大違いだ。


『なのでこの世界からそういうゲームバランスを壊す恐れのあるものは除外することにしました』

「お前この世界にはもう干渉できないとか言ってなかったか?」

『あれはナナオさんを納得させるためのうそです』

「うそかよっ。女神はうそつかないって言ってただろうがっ」

『それもうそです』

淡々と話す女神。


しばらく歩いていると人だかりが出来ている場所があった。

俺は近付いていき、

「どうしたんですか?」

とそこにいた男性に声をかけた。


「いやあ、実はモンスターが町の中に入り込んでいるんだよ」

「えっ、モンスター?」

俺は人波をかきわけ前に出ると、そこにいたのは見たことのある青色のちっこいモンスターだった。


「スライムじゃねぇか」


スライムは町に紛れ込んでしまったのかふるふると震えている。


倒す……いや今の俺にとってこいつは雑魚中の雑魚だ。

町の外に出してやるか。

『いいとこあるじゃないですか、ナナオさん』

まあな。


本当は殺されたリベンジをしたい気持ちもあるがこのスライムが仇かどうかはわからないし、人目もあることだし助けてやる。


俺はスライムに近付くとそっと両手で持ち上げた。

「大丈夫だからな、怖くないぞ。俺は味方ぶほっ!?」

すると突如スライムが大口を開け一瞬のうちに俺を飲み込んだ。


「ごぼっ!?」


俺は内側からスライムの体を叩くがびくともしない。

なんだこれっ。俺強くなったんじゃないのかよっ。


くそったれ、またこのパターンかっ。

おい、女神。どんな魔法がこいつには有効なんだっ?


『どんな魔法でも簡単に倒せますが今のナナオさんには無理かと』

なんでだよっ。

『だって魔法を唱えられないじゃないですか』

なんだとっ!?


俺はエレキショットを発動させようとスライムの体内で口を開くが、

「えべびぼぼっ!?」

言葉が発せられない。


やばっ……今のでだいぶ空気がなくなったぞ。

苦しいっ。


『ナナオさん、ナナオさん』

なんだよ、この苦しい時にっ。

それとも何か秘策でもあるのかっ!


『次やり直すときはレベルアップボタンはもうありませんからねっ』

俺が死ぬこと前提で話をするんじゃねぇっ、くそ女神っ!

どうにかしろっ!


苦しいっ、死ぬっ!


なんでスライムに二度も殺されなきゃならないんだよっ、こっちはレベル999の勇者だぞっ!


『ナナオさん、ナナオさん』

だからなんだよっ、どうにかしてくれ、頼むからっ!


『どうか安らかに』

てめぇ、くそアホ女神っ!


「ごぽっ!」


俺は薄れゆく意識の中で独り言のようにつぶやいた。


っ……ゲームバランスおかしくね?

お読みいただいてありがとうございました!

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