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リベンジ

「意外とないなぁ」

依頼書が貼られた壁の前で俺はもらす。


せっかくレベル999になったのでSランクの依頼でも受けてみようかと思ったのだがSランクはもとよりAランクの依頼もみつからない。

あるのはB、C、Dの依頼ばかり。


「Bランクの中から選ぶしかないか……」

そんな俺の目に留まったのが、

【大量発生した大王ウミウシガエルの退治 Bランク 三十万マルク】

の文字。


俺は大王ウミウシガエルにあっさりと殺された過去がある。

「リベンジしてやるか」

俺はその依頼書を掴むとカウンターに持っていった。


「大王ウミウシガエルの退治ですね。Bランクの依頼ですがお一人で大丈夫ですか?」

受付の女性が訊ねてくる。


「はい、大丈夫です」

「そうですか。では依頼の詳細を説明させていただきますね」

「あ、わかっているので結構です」

俺は手で制した。

たしか町を出てすぐ西の湿地帯だったはず。


「そうですか。この依頼は既にほかの冒険者さんたちが引き受けているので報酬は早い者勝ちとなりますがよろしいですか?」

「いいですよ」

「それではお気を付けて」

俺は受付の女性に見送られギルドを出るとヘキサ湿原に向かった。


「大王ウミウシガエルの弱点の魔法とかあるか?」

ヘキサ湿原への道すがら女神に訊いてみる。


『電気系の魔法が苦手ですけど今のナナオさんなら弱点なんて気にしなくても平気だと思いますよ』

「念には念を入れるんだよ」

一度やられてる相手だからな。


「電気系の魔法はどんなのがあるんだ?」

『サンダーボルトやエレキショットなどです。どちらも唱えるだけで発動できます』

「ふーん、そうか」

足元がぬかるんできた。

そろそろかな。


すると前の方から叫び声とともに男が必死の形相で走ってきた。

「楽して大金が稼げるって話だから乗ったのにあんなバケモンだなんて聞いてないぜっ!」

俺に肩をぶつけそのまま走り去っていく。


「なんだあいつ……?」

『さあ?』


ヘキサ湿原に着くと大王ウミウシガエルの大群と相対している者たちがいた。


「あれって……パンドラたちじゃないか?」


見るとキャットを背負ったパンドラとマリアが大王ウミウシガエルの大群に囲まれている。


「この依頼を先に受けてた冒険者ってあいつらだったのか」

『みたいですね』


パンドラが大王ウミウシガエルをひきつけ、その間にマリアは目をつぶりぶつぶつと呪文を唱えているようだった。

だが足元がぬかるんでいるのとキャットを背負っているのとでパンドラの動きがぎこちない。


「ホーリーマギカ!」

マリアが神聖魔法を唱えた。

まばゆい光が大王ウミウシガエルたちの頭上に降り注ぐ。


「まぶしっ」

俺はとっさに腕で目を覆った。


そして目を開けた時には大王ウミウシガエルたちはすべて消滅していた。


なんだよ、俺の出番がなかったじゃないか。

そう思った時、

『ナナオさん、パンドラの後ろにもう一体いますよっ』

女神の声が頭に響く。


キャットを背負ったパンドラの後ろには擬態をして背景に溶け込んでいた大王ウミウシガエルが今まさにパンドラたちを丸のみにしようと大口を開いているところだった。


「パンドラさん、後ろっ!」

マリアが叫ぶ。

と同時に、

「エレキショット!」

俺が唱えると手から黄色く光り輝く刃が放たれて、パンドラたちの真後ろにいた大王ウミウシガエルを真っ二つに切り裂いた。


「っ!?」


振り向き、大王ウミウシガエルのずり落ちてくる上半身をジャンプでかわすパンドラ。


着地すると俺を見て、

「……誰だか知らないが、どうやらあんたに助けられたみたいだな」

パンドラは口にした。


「あっ、あなたは昨日のっ……」

マリアも俺を見て声を上げる。


「なんだマリア、知り合いか?」

「いえ、知り合いというか……うちの教会に全裸で現れた方です」

「あー、マリアが言ってた変態ってあんたのことか。はっはっはっ」

「パンドラさんっ」

大笑いするパンドラを注意するように名前を呼ぶマリア。


「いやあ、悪い悪い。よりによって男嫌いのマリアの前に全裸で現れて服を恵んでくれなんておかしくて」

目頭を拭うパンドラ。

「その時のマリアの顔を見てみたかったよ」

「パンドラさんてば、もうっ」


「ぅん……何?」

パンドラの笑い声でキャットが目を覚ます。


「おお、気が付いたかキャット」

言うとキャットを地面に下ろすパンドラ。


「カエルが苦手だとは言ってたがまさか気絶するとはな。キャットも女の子らしいところがあったんだな」

「し、仕方ないでしょ。生理的に無理なもんは無理なんだからっ」

「そうそう、こいつがあたしたちを助けてくれたんだ。礼を言っておきな」

「こいつ……ってあーっ! あんた猫男っ!」

キャットが俺を指差し叫ぶ。


「「猫男?」」

「そうよ。さっき二人に話したでしょ。夜中に変な男が猫を探しに来たって……」

「それがこいつか?」

「そうよ、間違いないわっ」

変な男って……。


「ふーん、それにしても二人とも知り合いだったなんて奇遇だな。なぁあんた名前は?」

「ナナオだ」

「ナナオか。おかしな名前だな」

前にも聞いたセリフだ。


「ナナオ、あんたも冒険者なんだろ。どうだ、あたしたちと組んでみないか?」

「ちょっとパンドラ、急に何言い出すのよっ」

「そうですよ。私たちに相談もなく……」


「でもなぁ、ヴェガはいなくなっちまったしなぁ。男がいないとあたしらは冒険者ではいられないだろ?」

「え?」

キャットは周りを見渡す。


「そういえばヴェガの奴はどうしたのよ?」

「気絶したあんたをほっぽって逃げてったよ」

「なっ! あいつ殺してやるわっ。これだから男は信用できないのよっ」

「まったくです」

キャットの言葉にマリアが大きくうなずく。

ヴェガってのはもしかして俺にぶつかりながら走っていった奴のことか……。


「その点ナナオは信用できるぞ。あたしたちのことも助けてくれたし、何より顔があたし好みだ」

とパンドラは俺の肩に手を置いた。


「パンドラの好みなんて聞いてないわよ」

「でもナナオ様には既に冒険者仲間がいるのではないですか?」

「それは困るな。どうなんだ? ナナオ」

パンドラが俺を見下ろす。


「いや、仲間はいない。俺一人だ」

「なんだ、それならちょうどいいじゃないか。あたしたちの仲間になってくれ。そうすれば今回の報酬は全部あんたにやってもいいよ」

「ちょっとパンドラっ」

「まあまあキャット、マリアもこっちに来い」

二人の肩を抱き俺から少し距離をとるパンドラ。


「……どっちにしろ男は必要だろ……」

「……全額は絶対嫌よ……」

「……変態かもしれないですよ……」

「……あいつはかなり強いぞ……」

ところどころ会話が聞こえてくる。


「なあ、今回の報酬はどうなるんだ?」

俺は今、服と朝食に金を使い果たして無一文なんだ。どうしても金が欲しい。

「あのカエル一体倒したからせめて二、三万くらいもらえると助かるんだが……おーい、聞いてるか?」


「よしっ、話はまとまったぞ」

そう言ってパンドラが近付いてくる。


「今回の報酬はナナオ、あんたに全額やる。そんで次からは四等分だ。冒険に行かない時は基本それぞれの自由にしていて構わない。お互いに私生活には干渉しない。それでどうだ?」

後ろの二人は納得いっていないような顔をしているがいいのだろうか。


しかしパンドラには悪いが強くなった俺に仲間はいらない。

それにこの世界のことは創った張本人に聞けるからな。


俺が断ろうと口を開いたその時、

『駄目です。パンドラたちと組んでください。せっかく面白くなってきたところなんですから』

女神が言う。


なんでだよ。

『組まないのならもうわたくしは二度とナナオさんに助言はしませんからね。ふんっ』

だからなんでそうなるんだよっ。

『……』

おい、無視すんな。

『……』

おい、女神……おーい。


「ナナオ。聞いているのか?」

「あ、ああ」

「それでどうだ?」

おもちゃをねだる子どものような目で俺をみつめるパンドラ。 


「……わかった。組むよ」


こうして俺はまたしてもパンドラたちと冒険者仲間になった。

お読みいただいてありがとうございました!

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