レベル999
「俺がレベル999って……本当かよ」
『女神は嘘つきませんよ』
「それにしては全然実感がないんだが……」
俺は手をグーパーしてみる。
俺の体に変わった様子はない。
『ナナオさんのステータスはすべて限界まで上がっていますし、勇者が覚える魔法もすべて使えるようになっていますよ』
と女神。
「マジで? カンストしてるのか」
『かんすと?』
「勇者の魔法って例えばどんなのがあるんだ?」
俺はさっき脱いだばかりの服を見る。
「服を乾かす魔法とかあるか?」
『そんなピンポイントな魔法はありませんよ。ただ炎の玉を吐き出す魔法ならありますけど』
「炎の玉? それはどうやって使うんだ?」
『フレイムボールと唱えるだけです』
「フレイムボールだな」
と口にした瞬間俺はとてつもない吐き気に襲われた。
「……ぼおぇっ!」
すると俺の口からすいか大の炎の玉が飛び出た。周りの草に命中する。
「ぅあっちぃっ!? なんだこれっ!」
『今のがフレイムボールです』
「めちゃくちゃ気分の悪い魔法だな……おえっ」
まだ吐き気がする。
『そんなことよりいいのですか?』
「……何が?」
『このままでは放火犯になってしまいますよ』
吐き気を堪えながら顔を上げると草原が燃えていた。
いつの間にか俺を取り囲むように火が燃え広がっている。
しかも風の影響で火の回りはどんどん強くなっていっていた。
「おい、どうすんだよこれっ?」
『消すしかないのでは』
「どうやってか訊いてるんだよ、あちぃっ」
『アクアポンプと唱えてください。水が沢山出ますから』
「さっきみたいに口から出すんじゃないだろうなっ」
あんな強烈な吐き気二度と経験したくないぞ。
『早く手を炎の前にかざしてアクアポンプと唱えてください。焼け死にますよ』
俺は女神に言われた通り手を前に出すと「アクアポンプ!」と口にした。
その瞬間、
ドドドドドドドドッ!
まるで消防車のホースから飛び出るように俺の手から大量の水が勢いよく放出された。
「おお!」
燃え広がっていた火があっという間に消えていく。
『これは勇者がレベル120で覚える魔法です。どうですか、役に立つ魔法でしょう』
「ああ、確かにこれはすごいな」
草原はほんの少しだけ禿げ上がってしまったが、ものの一分足らずで火は完全に消し止めることが出来た。
『ではギルドに行って強いモンスター退治の依頼でも引き受けましょうよ』
「え……いきなりか?」
『今のナナオさんはおよそ百の魔法を使いこなすことが出来ますし、身体能力もレベル1の時とは比べ物にならないくらい上がっているので怖いものはありませんよ』
女神は言う。
「そうか……だったら」
アクアポンプの水でびしょびしょになった服を絞って着ると俺はギルドに向かった。
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