裏技
「迷い猫をみつけました」
翌朝ギルドに着くと受付の女性に猫を渡した。
「ご苦労様でした。それでは……こちらが報酬の一万マルクです」
「どうも」
俺は一枚の札を受け取る。
この世界に来て初めての金だ。
女神によれば一万マルクは一万円と同じくらいの価値があるらしいからこれで食べ物や服が買える。
俺はギルドを出るとまず防具屋に向かった。
外套だけではやはり中がすーすーして心もとないからな。
防具屋の女店主に一万マルクで適当にシャツとズボンと靴をみつくろってもらい、残った金で朝食をとった俺は再びギルドへと向かった。
『今日もEランクのつまらない依頼をするんですね』
「つまらないは余計だ」
『ですが町の外にはわたくしが作り上げたまだ見ぬモンスターが山のようにいるのですよ。もったいないとは思いませんか?』
「まったく思わないね」
もうモンスターに殺されるのはたくさんだ。
『しかしそれではこの世界の醍醐味が薄れてしまいます。ナナオさんには是非ともアナザーワールドを満喫してほしいのです』
「だったらスライムに勝つ方法を教えろ。まずはそこからだ」
『スライムに勝つ方法ですか?』
最弱モンスターであるスライムも倒せないようではレベルが上げられない。
レベル1のままではどんなモンスターにも勝てない。
単純な理屈だろ。
『え~っとそうですね……あることにはあるのですが……』
「マジで?」
『あまり教えたくないです』
「なんだでだよ。教えろってば」
『う~ん……』
渋る女神。
「もったいぶるなよ。せっかく作ったモンスターを無駄にしたくないんだろ」
『それはそうなのですが、これをやるとゲームバランスが崩れる恐れがありまして……』
「そんなのとっくに崩壊してるわっ」
スライムが倒せない時点でもう詰んでいる。
『実はレベルを上げる方法はモンスターを倒すだけではなく他にもあるのです』
と女神は言う。
「どういうことだ」
『町はずれの教会の裏にある井戸の中には……いえ、やっぱりやめましょう。こんなのはよくないです』
「おい、途中でやめるなよ。井戸がどうしたって?」
『……井戸の中にはボタンがあるのですがそれを一回押すごとにレベルが1上がるように設定しておいたのです』
「なんだそれっ。まるっきり裏技じゃねぇか。お前裏技なんてないって言ってたよなっ」
『はい? そうでしたっけ?』
これだからアホは困る。
「そういうことなら善は急げだ」
俺はきびすを返し町はずれの教会へと駆けだした。
『善は急げって使い方あってますか?』
「知るか」
そんなことどうでもいい。
もし女神が言ったことが本当なら早く試したい。
お読みいただいてありがとうございました!




