盗られた写真
探してみると町には意外と猫自体は沢山いたものの肝心のミミは見当たらなかった。
「うーん、こいつも違うか」
灰色の猫をみつけ写真と見比べるもミミではない。
そうこうしているうちにあっという間に日が落ちた。
「まいったな。宿屋に泊まる金さえないのに……」
『野宿するしかないですね』
とどこか楽しそうな女神の声。
他人事だと思って……。
公園に入ると仕方なく俺はベンチに横になった。
「はぁ~、疲れた~……」
全裸で町の中を走り、その後職探しと猫探しに一日中歩き回ったせいで足が棒のようになっていた俺は横になるとすぐに寝入ってしまった。
「……おい、早くしろよ、起きちゃうだろ……」
「……でもこの人、猫の写真しか持ってないよ……」
ひそひそ声が聞こえて俺は「ぅん……?」と目を覚ました。
見ると二人の子どもが俺の身に纏った外套をまさぐっていた。
「やばっ、起きたぞ、逃げろ!」
「うわぁー!」
俺が目覚めたことに気付き子どもたちは声を上げ逃げていく。
「あっ、おい待てって……なんなんだまったく……」
そう言いながら外套に手を当てると、
「写真がないっ」
迷い猫が写った写真がなくなっていた。
さっきの子どもたちが持っていったのか……?
俺は立ち上がると子どもたちが逃げていった方向に走った。
奥まった道を進んでいくと子どもの姿こそ見えなかったが一軒だけ建物が見えた。
そこにあったのは建物というには少々無理がある崩れかかったトタン屋根のボロ小屋だった。
「ここって確か……キャットたちストリートチルドレンのたまり場だったよな」
すると、
「手を上げなさい」
背後から声がした。
同時に首筋に短剣を押しつけられた。
「キャットか……」
俺は前を向いたまま両手を上げた。
「……あんた何者よ? わたしのことを知ってるってことはわたしを殺しにでもきたわけ?」
「勘違いするな、俺は写真を取り返しにきただけだ」
「写真? どういうこと?」
「とりあえず首に押し当ててるそれどかしてくれないか」
俺の言葉の後少し間があって、それからキャットは短剣をゆっくり引いた。
「それであんたは誰なの? 写真て何?」
俺はキャットに向き直ると公園で起きたことを説明した。
「ふーん、そういうことね……わかったわ、ちょっと待ってて」
言うなりボロ小屋の中に入っていくキャット。
そしてすぐに出てきた。手には写真を持っている。
「うちの子たちが写真を持ってたわ。これあんたの写真?」
迷い猫の写真を差し出してくる。
「ああ、そうだ」
「なら返すわ、はい」
あれ? 意外とすんなり返すんだな。
「お前、盗賊だよな?」
「だったら何よ」
身長差から自然とキャットはやや上目遣いになる。くりんとした大きな目はまるで猫のようだ。
「……いや、別に。じゃあな」
俺がきびすを返すと、
「ちょっと待ちなさいよっ」
キャットが俺を呼び止めた。
「なんだよ」
「その写真に写ってる猫、あんたの?」
俺の手の中の写真を指差す。
「いや、違うが探してる」
「……ちょっと待ってて」
そう言うとまたもボロ小屋の中に入っていった。
なんなんだ?
今度は少し時間がかかって出てきた。
灰色の猫を抱いている。
「それって、もしかして……」
「写真の猫でしょ。何日か前からうちにすみついてたのよね。ほら」
「おお……ありがとう」
「これで貸し借りなしだから、じゃあね」
手をひらひらさせキャットはボロ小屋の中に入っていく。
こうして俺は期せずして迷い猫を捕獲することが出来た。
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