迷い猫探し
町の中心部に着いた俺は早速職探しを始めた。
女神によると職安みたいな場所はないようなので地道に足で探すしかないみたいだ。
「間に合ってるよ」
「悪いな、今は人手は足りてるんだ」
「ごめんねぇ、つい先日新しい子を雇ったばかりでさぁ……」
「邪魔だ、出てけ!」
俺は片っ端から店を回ったがすべて断られてしまった。
「おい、女神。どうなってるんだ、話が違うぞ。普通に働けるんじゃなかったのか?」
『そう言われましても雇ってもらえるかどうかはナナオさん次第ですから』
まるで俺が悪いみたいじゃないか。
『いっそギルドに登録してみたらどうですか?』
「なんでだよっ。そのせいでさっきバカでかいカエルに殺されたんだぞっ」
『ですからモンスター退治の依頼ではなく別のもっと安全な依頼を受ければいいんですよ。ギルドにはモンスター退治以外の依頼も沢山あるはずですから』
う~ん、そうだな。確かにこのまま当てもなく店を回るよりその方が効率的かもしれないな。
女神の提案を飲むのは癪に障るが……仕方ないか。
「ギルドに登録しに行くか」
俺はギルドの依頼を受けることに決めた。
ギルドの場所は一度パンドラに連れられてきたからわかっていた。
ギルドに入るとカウンターにいた受付の女性に話しかける。
「すいません、初めてなんですけど……」
「でしたらお名前をお願いします」
「ナナオです」
「お一人ですか?」
受付の女性はキーボードを叩きながら俺に訊いてくる。
「はい」
「では壁に貼られた依頼書の中からお好きなものを選んでこちらにお持ちください。詳細を説明いたしますので」
「わかりました」
言うと俺は依頼書の張られた壁の前に立った。
依頼のランクは上から順にS、A、B、C、D、Eの六段階だったな。
当然俺はEランクの依頼を探すことに。
壁の前に立つ冒険者たちを避けながらモンスター退治以外の依頼を探す。
しかし俺の視界に入ってくるのはB、C、Dランクの依頼書ばかり。
最低のEランクの依頼は数が少ないらしいな。
そんな時俺の目に映ったのは【大量発生した大王ウミウシガエルの退治 Bランク 三十万マルク】の文字。
ついさっき引き受けた依頼の貼り紙だ。
俺はそれを手にしてみつめた。
『その依頼はナナオさんには荷が重いのではないですか?』
と女神の声。
わかってるよ。
俺はその依頼書から手を放すとしゃがんで壁の下の方に貼られた依頼書も見てみた。
そこには一枚だけEランクの依頼書があった。
俺はすぐさまそれを手に取り視線を落とす。
そこには【迷い猫探し Eランク 一万マルク】と書かれていた。
これだな。
俺は依頼書を手に受付の女性に声をかける。
「この依頼受けます」
「ではこの依頼の詳しい説明をいたしますね。イザベラさんの飼い猫のミミがいなくなってしまったので探してほしいそうです。依頼主はイザベラさんご本人です」
受付の女性は写真を渡してきた。
「この猫がミミです」
そこに写っていたのは灰色の体毛をした細身の猫だった。ミミと名前の書かれた首輪をしている。
「報酬は一万マルクです。引き受けますか?」
「はい、もちろん」
俺は写真をポケットにしまうとギルドを出た。
大通りではなく猫がいそうな狭い路地裏を探して歩く。
「なあ、女神」
『なんですか?』
「一万マルクってどれくらいの価値があるんだ?」
『え、そんなこともわからずに引き受けたんですか?』
「いいから教えてくれ」
Eランクの依頼がこれしかなかったんだからしょうがないだろ。
『ナナオさんが暮らしていた世界と通貨の価値はほとんど変わりませんよ』
と女神は言う。
「それって一マルクが一円くらいってことか?」
『大体そんな感じです』
それはわかりやすくて助かるな。
つまり猫を探して一万円か……ちょっと微妙な気もする。
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