冒険者ギルド
冒険者ギルドとやらに俺たちは向かっていた。
「っていうか冒険者ギルドってなんだ?」
「あんたそんなことも知らないの? はぁ~、そんなんでよく勇者名乗れるわね」
キャットが後ろを振り向いた。
「冒険者ギルドっていうのはね冒険者たちがこのメンバーでパーティーを組みますって登録するところよ。登録をしないと依頼が受けられないのよ」
「依頼書はギルドの壁に貼ってあるんだ。その中から自分たちの力量に合った依頼を選ぶってわけだ」
パンドラは続ける。
「依頼のランクは一番上からS、A、B、C、D、Eランクに分けられている。もちろんランクが上の方が危険だし難しい」
「その代わり報酬もいいけどねっ」
とキャット。
「私たちは普段Bランク以上の依頼しか受けませんけど、あなたがいるからもっと簡単な依頼の方がいいかもしれませんね」
マリアがいやみったらしく俺を横目で見る。
「別に構わないぞ。俺はどうせ戦闘に参加するつもりはないし」
「は? 何それ? マジで言ってるわけ?」
「当然だろ。俺はレベル1なんだからな。どうしてもって言うなら参加してもいいがお前らの足を引っ張るだけだぞ」
「うわ、開き直りやがったわね。ちょっとパンドラ、こいつこんなんでいいの?」
キャットはパンドラに顔を向けるが、
「ああ。あたしがそれでもいいって言ったんだよ」
パンドラは俺の味方だ。
「はぁ~、過保護なんだから」
「あなたは女性に守られて情けなくないんですか?」
マリアが言うも、
「レベル200超えのお前らにはレベル1の俺の気持ちなんてわからないだろ」
「やはり男性というのは軽蔑に値する生き物ですね」
「そうかい」
文句ならパンドラに言ってくれ。俺は冒険者なんてやりたくないんだからな。
町で地道に仕事して生活する方がよっぽどいい。
「みんな着いたぞ!」
パンドラが声を上げた。
「ナナオ、ここがギルドだ」
壁に少しひびが入っているもののそれは見上げるくらい大きくて立派な建物だった。
ここがギルドか……。
これもお前が造ったのか?
『そうですよ。といってもギルドの規則などはわたくしではなく中にいる人間たちが作ったようですが』
そうか。
「どうしたのよナナオ、大きすぎて声も出ないわけ?」
キャットが自慢気に俺の顔を覗き込んでくる。
いや、大きいとはいっても現代のビルなんかに比べたら全然比較にならないぞ。
俺が黙りこくっていたのはただ単に女神と頭の中で会話していたからなのだが。
しかしそれを知らないキャットは楽しそうに続ける。
「ナナオのことだから自分の家から一歩も出たことないんじゃないの。だってレベル1なんだもん」
「子どもだってレベル5くらいはありますからね。その年でレベル1なんて今までどうやって生きてきたんですか? 逆にすごいですよ」
とマリアが冷たい目で俺を見た。
すべて女神のせいなんだよっ、と言ってやりたいが余計変に思われるだけなので言わないでおく。
「さあ、あんたら。無駄話してないで中に入るよ」
パンドラが先頭切ってギルドに入っていく。
「はーい」
「はい」
パンドラたちに続いて俺もギルドに足を踏み入れると、そこにいた冒険者たちの視線が俺たちに注がれた。
正確に言うと俺たち、ではなくパンドラとキャットとマリアにだ。
「おい見ろよ、パンドラだぞ。でっけぇー」
「キャットちゃん、可愛い~」
「相変わらずマリアさんはきれいだな」
冒険者たちが遠巻きに見ながら口々に言う。
パンドラたちは冒険者たちの間では知られた存在のようだ。
人の波を抜け沢山の依頼書が張り出された壁の前に立つと、
「この中から好きなのを選ぶんだ」
パンドラが依頼書を眺めながら口にした。
「なんだか今日はいつもより依頼の数が少ないわね」
「これで少ないのか?」
壁一面に張り出されているのに?
「そうよ。前来た時なんかあっちの壁にもびっしりだったもの」
と隣の壁を指差すキャット。
「それで今日はどうしますか? ナナオ様がいるのでEランクの依頼にしますか?」
マリアがパンドラとキャットの顔を見比べた。
Eランクっていうのは一番簡単な依頼のことだよな。
「えー、わたしは高ランクの依頼の方がいいわ。今さら安い依頼なんて受けてらんないわよ」
「そうだな。ここはいつも通りB以上の依頼にしよう」
そう言ってからパンドラは一枚の依頼書を手に取った。
「これなんかどうだ?」
キャットとマリアにそれを見せる。
俺も二人の間から覗き込んだ。
【大量発生した大王ウミウシガエルの退治 Bランク 三十万マルク】
パンドラが手にした依頼書にはそう書かれていた。
大王ウミウシガエルってなんだ?
女神、聞いてるか?
『湿地帯を好むモンスターですよ。ウミウシとウシガエルを足して二で割ったような見た目にしました』
うげっ、気持ち悪そうなモンスターだな。
だが、
「う、カエルね……ま、まあいいんじゃない。報酬もちょうど三等分に出来るし」
「そうですね。私もこの依頼で構いませんよ」
とこれに賛同するキャットとマリア。
パンドラは俺を見下ろす。
「そんな嫌そうな顔をするなナナオ。あんたが弱いのはわかってるからあたしたちで守ってやるよ」
「ちょっとパンドラ、勝手に決めないでよね。わたしは足手まといのナナオを守るつもりはこれっぽっちもないんだからっ」
「私も同感です。ナナオ様には隅の方でおとなしくしていてもらいましょう」
ちっ……三者三様で俺のプライドを傷つけてくれるじゃないか。
「この依頼受けるよ」
カウンターにいる受付の女性に依頼書を差し出すパンドラ。
受付の女性は、
「冒険者登録はお済みですか?」
優しい笑みを浮かべ訊いてくる。
「いや、登録も今頼むよ」
「そうですか、かしこまりました。ではまずリーダーの方のお名前を教えてください」
「パンドラだ。チーム名もパンドラで頼む」
「かしこまりました」
手慣れた様子で冒険者登録とやらを進めていくパンドラ。
受付の女性はキーボードを叩きながら、
「お仲間のお名前をお願いします」
「キャットとマリアとナナオだ」
「キャット様、マリア様……と、ナナオ様ですね。はい、登録は済みましたので依頼の詳細を説明させていただきますね」
そう言って顔を上げた。
「ヘキサ湿原に生息する大王ウミウシガエルが突然大量発生しました。依頼主はヘキサ湿原を管理している地元自治体です。大王ウミウシガエルは雑食性で消化速度が異常に速く、また繁殖力も高いので早急に駆除してほしいそうです」
「わかったよ」
「ねぇ、駆除って具体的にどうすればいいの? 殺しちゃっていいわけ?」
パンドラの後ろからひょこっと顔を出すキャット。
「ええ。手段は問わないそうなので全滅させてくださいとのことです」
「わかったわ。それなら好きなようにやらせてもらうわねっ」
キャットはきびすを返しギルドを出ていく。
「じゃあ行ってくるよ。すぐ戻るから三十万マルク用意しておいてくれ」
「はい。いってらっしゃいませ」
受付の女性の丁寧なお辞儀に見送られ俺とパンドラとマリアもギルドをあとにした。
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