異世界転移
「あなたは幸運なことに記念すべき一千億人目の死者です。ですから記憶と肉体はそのままで特別にわたくしが創造した世界、アナザーワールドに転移させてあげます」
トラックにはねられて死んだと思ったら突然妙な空間に引きずり込まれて、自分のことを女神だと名乗る美女が目の前に現れこんなことを言ってきたらどう思うよ?
ラッキーだと思う?
それともアンラッキー?
ちなみに俺はどっちでもなかった。
「あの、女神様? 俺死んだんですよね。だったら普通に天国がいいんですけど……」
「それはいけません。せっかくわたくしが精魂込めて一から創り上げたアナザーワールドが無駄になってしまいます」
まるでビキニのような白装束を纏った女神様は口をとがらせて言う。
「いやいや、それはそっちの都合であって俺とは何も関係ないですよね」
スイカみたいなでかい胸をぶら下げやがって。
きっと頭にいくはずの栄養が胸にいってしまったんだな。
「とても言いにくいのですがわたくしは相手の心が読めるのです。ですからあなたが今思った低俗なことはわたくしには筒抜けなのですよ」
「え、マジですか……すいません」
「いいえ、構いませんよ。わたくしと接する殿方は大体似たようなことを考えますから」
「そ、そうですか……」
痴女みたいな恰好をしているからいけないんじゃないのか。
ってやべ、心が読めるんだったっけ。
まずい、そう思うと余計に変なことを考えてしまう。邪念よ、どっかいけっ。
「ふふっ。あなたは面白い人間ですね。わたくしの創ったアナザーワールドにうってつけの人間です」
「ちょっと待ってください、女神様。俺そのアナザーなんとかなんていう世界には行きたくないですよ。天国がいいですっ」
「アナザーワールドです。わたくしが初めて精魂込めて一から創った世界です、楽しんできてくださいね」
「だから俺の話を聞いてくださいってば。俺は普通に天国に行きたいんです、女神様が創った世界なんて行きたくないんですよ」
「そうですか……」
女神様はしゅんとなってしまう。
あれ? 言い過ぎたかな?
「あの、女神様。俺は天国行きにしてもらって、次の死者をアナザーワールドに連れていけばいいんじゃないですかね?」
「それは駄目です。わたくしは一千億人目の死者をアナザーワールドに送ると決めていましたので」
意外と頑固だなこいつ。
あっやべ、こいつって言っちゃった。
「でもあなたがそこまでアナザーワールドに行くのを拒否するのでしたら仕方ありません。わたくしは二千億人目の死者が出るまで待つことにします」
おっ、話が通じたか。話の分かる奴でよかった。
「そしてあなたには地獄に行ってもらいます」
「うえっ!? 地獄っ!?」
「仕方ありませんよね。ではさようなら、地獄で永遠の苦痛をその身で受けてくだ――」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ったっ! なんで俺が地獄なんですかっ!? 何も悪いことしてませんよっ!」
女神様が地獄の門を開こうとしているのを必死で止める。
「あなたはわたくしのことを傷つけました。それだけで充分地獄行きの理由になります」
「なんだそれっ!? 無茶苦茶ですよ、そんなのっ。俺、地獄は嫌ですっ、絶対嫌ですっ! 勘弁してくださいよっ!」
まだ十八年しか生きてないのに、彼女だっていたこともないのに地獄なんてあんまりだ。
「……ではアナザーワールドに行きますか?」
「行きます、行きます、行かせてくださいっ!」
「そうですか。そこまで言うのでしたらアナザーワールドに転移させてあげましょう」
ぱあっと顔が明るくなった女神様は宙に手をかざした。
すると空間がぐにゃ~っとねじ曲がって裂け目が出来た。
「ここに手を入れてください」
「手を入れるんですか? この裂け目に?」
なんか変なものを連想させる形だなぁ。わざとやってるんじゃないだろうなこの人。
「どうかしましたか?」
「いえ別にっ」
俺は裂け目にゆっくり手を差し込んだ。するとぐにゅぐにゅと中に吸い込まれていく。
「うおっ、なんだこれっ! 気持ち悪っ!」
そのまま頭、胸、腹とどんどん中に入っていく。
そして全身がすっぽり入ってしまった。
「なんだここ? 暗くて何も見えないぞ……」
大きなナマコがいたとしたら腹の中はこんな感じかもしれないな。
そんなことを考えていたら、
ぽんっ。
と鶏のお尻から卵が飛び出すように俺は外に放り出された。
暗いところから一転して視界が明るくなり俺はまぶしさに目を閉じる。
次の瞬間、どさっと地面に落ちた。
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