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硝子の向こう側  作者: 花籠 密
2/2

2︰初めてを君に

キャラは掴めてきましたよ…!

読んでくれると嬉しいです!

ハルと会ったことは、何故か白い人達には伝わっていなかった。

 なぜだかその出会いを人に話すことが憚られて、私は結局ハルの事を胸に秘めたまま誰にも打ち明けることは無かった。

 

 「あーあー、シレーネ、いる?」

 「!!」

 

 ハルの声がして、勢いよく窓の方を振り向いた。

 私の髪とは正反対の、真っ黒な髪をした彼がクツクツと笑っている。

 

 「ハル、また来てくれたんですか?」

 「約束しただろ?また会いに来るからって」

 

 そう言ってから、ハルはもっと近くに寄れとでも言うように手招きした。

 素直に従って窓に向かうと、彼は満足そうに笑った。

 

 「シレーネにプレゼントがあるんだ」

 「プレゼント?でも、ガラスが…」

 「大丈夫だって、俺を信じてよ」

 

 ハルが指を複雑に動かすと、次の瞬間、私の目の前に鮮やかな色の花が現れた。

 

 「?!」

 「あははは、その顔が見たかったんだ!

 どう?綺麗なバラだろ?」

 「はい、すごく綺麗です…」

 

 トゲがあると本には書いてあったが、この薔薇にはついていない。

 いや、どうやら折ってあるようだ。ハルが折ってくれたのだろうか。

 なんだか優しくされたような感じがして、自然と口元が緩んでしまう。

 

 「喜んでもらえて良かった」

 「はい!

 それにしても、ハルは転移魔法が使えるんですね…驚きました」

 「え?…あぁ、うん。内緒にしてね」

 

 一瞬呆けた顔をした後、ハルは人差し指を唇に当てて『しー』と言った。

 その仕草が可愛く思えて、再び笑顔になってしまう。

 

 「ちなみに、シレーネはなにか魔法使えるの?」

 「はい。5属性は一通り。それから白属性も使えますよ」

 「へぇ…?見てみたいなぁ」

 「えーっと、小さいものなら見せられますよ。何がいいですか?」

 

 あまりにもキラキラした目で見るものだから、最初から断る気はなかったものの、圧に押されてしまう。

 ハルはしばらく考え込んでから、困ったように笑った。

 

 「実は俺、転移魔法以外ほとんど使えないんだ…。

 だから、シレーネが教えてくれると嬉しい」

 「そう、なんですか?」

 「そうなんです。魔法に関してはシレーネの方が先生だね」

 

 人に物を教えるというのは初めてだ。

 なんだかワクワクする。

 それから、『先生』と呼ばれるのも不思議と悪くない。

 

 「では説明しますね!

 これが赤属性で作れる、初級の炎です」

 「おおっ!凄い!天然のライターだ!」

 

 指先に炎を出現させると、まるで少年のようにハルは喜んだ。

 なんだかこっちまで嬉しくなって、私は次々と他の指にも魔法を発現させていく。

 

 「これが青の水球、こちらは黄色の雷、それと順に風、土です。

 最後にこれが…」

 「す、凄い…。なんだか柔らかそうだ…」

 

 もう片方の手に、白属性で作られた光球を発現させると、ハルはガラスに張り付く勢いで魅入っていた。

 なんだか得意になってしまって、5属性を消して光球をポンポン増やしていく。

 幾つもの光球が室内にふよふよと浮かび上がって、まるで本の中の星のようだった。

 

 「凄い…いいな、触ってみたい…」

 「…あ……」

 

 その言葉に、浮かれていた気分が急降下していくのを感じた。

 幾ら言葉を交わそうとも、直接触れ合うことは出来ないと今更ながらに気づいてしまったのだ。

 

 「で、でも!ハルは転移魔法が使えるんですよね、なら…」

 「…俺のは、小さいものしか運べないから…」

 「そ、そうなんですか…」

 

 なんだか気まずい雰囲気になってしまって、出していた光球も惑うように小さくなって消えていった。

 

 「でも、俺らが友達な事は変わらないから大丈夫だよ!」

 「え、友達…ですか?」

 「えっ、友達だと思ってたんだけど…。シレーネは違うの?」

 「いえ!嬉しいです、友達です!」

 

 先程までの気分が嘘のように、心が弾んでいた。

 友達というのができるのは初めてだ。

 友達は助け合い、信頼し合い、笑い合えるものだと本で知った。

 私には一生出来ないと思っていたものが、まさかこんなに簡単に出来てしまうなんて。

 

 「ありがとうございます、ハル…。

 なんだかハルと居ると、嬉しいことだらけですね」

 「どういたしまして。…そんなに喜んで貰えると少し照れるなぁ」

 

 はにかむ様に笑うハルを見ていると、胸がぎゅっと締め付けられた。

 けれどそれは、黒くて冷たいガラスを見ていた時のような苦しさじゃなくて、不思議と心地の良い感覚だ。

 

 「そうだ、次は何が欲しい?

 またプレゼント持ってきてあげるよ」

 「欲しいもの、ですか?」

 「そう。何でもいいよ!

 あ、やっぱり何でもは嘘かも…できる限りで」

 

 うーんうーんと唸る私を、ハルは微笑ましそうに眺めている。

 なんだか子供扱いされてるような気がしてなにか言おうとした途端、ふと欲しいものが思い浮かんだ。

 

 「虹が…」

 「うん?」

 「虹が見たいです!」

 

 そう、虹。

 空が色々な色に染まるのだというそれは、まだ写真でも見た事がなかった。

 

 「うーん、虹、かぁ…」

 「難しい…ですか?」

 「いや、あ……」

 

 しばらく考え込んだあと、ハルはぱっと顔を上げた。

 

 「そう言えば、シレーネって俺の後ろの景色とか見えてる?」

 「あ、はい。普通に見えてますよ」

 「よし、なら行けるかも!

 次の約束しよう!今度は君に、虹を見せてあげる」

 「…!!本当ですか!?」

 「あぁ!見たこと無いんだろ?」

 「はい…」

 「なら尚更!

 俺が初めてを君に教えるんだと思うと、とても嬉しいんだ」

 

 幸せそうに笑うハルの顔に、また胸がぎゅっとされた気がした。

 自然とハルに手を伸ばしてしまって、しかし結局それは硝子によって阻まれる。

 それを見て、ハルも私の掌に重ねるようにガラス越しに手を当てた。

 

 「……また、次似合う時まで」

 「はい。…楽しかったです」

 

 ――待ってます。

 そう告げる前に、もう窓は黒塗りに変わっていた。

 そんなハズはないと分かっているのに、不思議とガラス越しに合わせていた掌が、ほんの少しだけ、暖かいような気がした。

心の傾き具合を表現出来たらと思います。

1人だったシレーネにとって、きちんと自分を見てくれるハルの存在はとても大きいものなんです。

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