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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
98/204

第98話


視線の先に、今回の…きっては魔物殲滅隊の最大の敵が立っている。しかしどういう事か。アルターの胸には穴が空いていて、大量に血が流れ出ている。


(何故負傷している…)


幸雄は疑問に思いつつも刀を構える。


が、これは好都合でもある。幸雄が見る限り、アルターの魔力は、以前と比べても格段に減少している。


加えて、戦える状態ではない傷。

気は抜かずにアルターを真っ直ぐに見据えた。


「陽羽はどこだ…」


「さぁな…俺が知った事じゃないな…」


がっ、と唐突に衝撃が訪れる。アルターの放った魔弾が命中し、幸雄の身体は鉄柵の門に叩きつけられた。


「ぐっ…」


「今回は遊び抜きだ…小僧」


アルターは幸雄の右手に足を乗せ、体重をかける。ミシッと骨が軋む音がして、激痛が走った。


歯を食いしばり叫びを押し殺して、魔石を投げつける。幸雄は魔石を発動させる事は出来ないのだが、警戒したアルターは幸雄から距離をとった。


「くそっ…」


右手に軽く力を入れるが、痛みが走るだけで力が入らない。左手で刀を握り、ゆっくりと立ち上がった。


「ハッタリか…」


アルターによって振るわれた剣を流し、刀を振り下ろす。アルターの肩口に掠ったものの、避けられてしまう。


アルターの剣先が幸雄に当たりそうになった時、どこからともなく幸雄と剣先を阻むようにして、透明の壁のようなものが現れた。


「!」


一瞬の隙を逃さず、刀をアルターの胸に突き刺す。刀身に血が滴り、アルターの双眸が見開かれる。


が、それも束の間、剣の柄を使い、幸雄の鳩尾に食い込ませた。


グラッと頭が揺れ、吐き気が込上げる。思わず刀から手を離してし、数歩後退った。

アルターはというと、刺さった刀を無造作に引き抜き、刀を放り投げた。



───い…おい!!



幸雄の耳に直接、ゼプテンバールの声が響いた。返事はせず、声に耳を傾けた。



───近くにディツェンバー様の魔力を感じる!



「!」


つまりは、近くに陽羽がいるという事だ。視線を張り巡らすが、姿は見えない。続けて繰り出されるアルターの剣戟を避け、声を張り上げた。


「陽羽!!どこだ!?」



───待て!女の子よりも先にアルターだ。この手は使いたくなかったけど…。



ゼプテンバールが悔しそうに呟いた途端、痛みが若干和らいだ気がした。加えて力が湧き上がってくるのを感じる。



───ちょっとだけだよ…ここでアルターを倒せ!



アルターの攻撃は避けたが、代わりに幸雄の眼帯の紐が切られた。


普段は見えない幸雄の右目は、赤色だった。が、違った。本来の幸雄の瞳の黄色と、ゼプテンバールの瞳の色である赤が混じったような、半分に色が分かれ、鮮やかにグラデーションがかかった色だった。


アルターの攻撃を避けつつ、投げ捨てられた刀を再び握りしめた。ぐっ、と強く踏み込んで距離を詰める。


けたたましい金属音が鳴り響き、互いの身体の至る所に傷が出来ていく。刃と刃が弾かれ、響き、火花を散らす。


消耗戦に近かった。互いの体力が削がれ、段々と一撃の威力が弱くなっていく。


それでも負けじと幸雄は大きく踏み込み続ける。ここで引いては、陽羽を助けられない。


しかし、幸雄の頬が深く斬られ、血が勢いよく飛び散った。その瞬間、幸雄はいくつかの魔石をアルターに投げつけた。


先程は発動しなかった魔石が、眼前で発動して煙が舞った。


「何っ!?」


今までの幸雄なら、魔石を発動させる事は不可能だった。しかし先程、ゼプテンバールが確かに、幸雄に魔力を渡した。


今までゼプテンバールの魔力を使う事を拒まれ続けた幸雄だったが、彼本人が許したとなれば話は別だ。

虚をつかれたアルターの背後に回り、心臓を貫いた。


「───!!!」


頭上で、血を吐く声が聞こえた。カランッと音を立ててアルターの手から剣が落ちる。


「……この俺が…小僧如きに…負けたのか…」


可笑しそうに一笑した後、アルターはか細くなった声で幸雄に問うた。


「…小僧…女はもう…お前の知る女ではない…」


「………」


「捨てるのなら…今のうち…だぞ」


「…捨てたりなんかしない」


刀の柄をぎゅっ、と握り、アルターを見上げた。


「捨てられる…訳もない…」


「…ふっ、後悔する事になるな…」


刀を引き抜くと、アルターがゆらりと幸雄に向き直り、額に指を這わせた。


「!?」


慌ててその手を払い除ける。そのままアルターはその場に倒れ込み、黒い魔石を残して姿を消していた。


「………」


アルターに触れられた額を、確認するかのように自身で触れた後、陽羽を探しに城の入口に通じる花の道へ駆けた。


庭らしき場所に陽羽は呆然と立っていた。懐かしく感じられるその姿に、涙が込み上げてくる。


「…陽羽…」


「………さ、ないと……私が……壊して(殺して)あげないと……」


ぶつぶつと呟く陽羽に目を見張ったが、そんな事幸雄にはどうでもよかった。


陽羽に駆け寄り、そっと抱き寄せた。その瞬間、光を失っていた陽羽の目が開かれていく。


「…長月…君…。来てくれ……あ、……ぁああ…そんな…どうして…私っ……私は………っ……!」


悲痛そうに幸雄を見つめた後、陽羽はふっと意識を失った。左腕で身体を支え、その場にしゃがみ込んだ。


「ひ、陽羽!?どうした…陽羽…!」


身体を揺らすが、反応はない。


「長月!!無事か!?」


鉄柵の向こうから海の声が聞こえ、はっと顔を上げた。海の手元には血に濡れた刀が握られており、彼の所でも戦闘が繰り広げられていた事が伺える。


しかし、彼には傷も、服が乱れている事もなかった。圧倒的な実力でねじ伏せたのだろう。


城から舞夜も駆け寄ってくる。


終わったのだ。戦いが、終わったのだ。陽羽を取り戻せたのだ。


それだというのに実感は沸かないままだった。陽羽が気絶してしまったからだろうか。

ひとまず、エーラの家に戻るのが先だ。


負傷した幸雄に代わり、海が陽羽を運ぶ。青白い顔を覗き込み、幸雄は眉を寄せたのだった。

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