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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
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第94話

色鮮やかな椿の花が咲き乱れる庭園に、ピキキッ、と音を立てて咲く氷の花。


月明かりに照らされてキラキラと輝くそれは、どれもが口を揃えて美しいと言うだろう。しかし、それは敵の攻撃によって生まれた産物だ。


佳乃と蓮は眼前にいる敵を見据えながら、乱れた息を整えた。


屋敷のバルコニーの柵に立つ魔物。川水のように透き通った髪を耳の下で結んでおり、ぴょこん、と可愛らしいアホ毛が立っている。


口元をマフラーで隠しながら、魔物は佳乃と蓮を見下ろす。


「中々。手強い」


背負っている長剣に手をかけながら、魔物は地に降りた。ふわり、とアホ毛とマフラーが揺れる。


「我が名はアイス。お前達の名を聞こう」


「魔物に名乗る名は持ち合わせてないわ!」


佳乃は鎖をアイス目掛けて放つ。アイスの右腕を絡め取った鎖を、佳乃は力いっぱい引き寄せる。抵抗する様子も見せず、アイスは地面に叩きつけられた。かに思えた。


土埃の中から現れたアイスは無傷だった。彼の立っている地面は、衝撃に耐えられず抉れてしまっていたが、眉一つ動かさずにその場に立っている。


「文月先輩。マズイっス。このままだと俺らの魔力が尽きてしまうっス」


「分かってるわ…でも───」


指一つ動かさず、アイスは氷魔法を発動させた。蓮の足元に氷が現れる。間一髪で避けたものの、氷の棘が蓮の腕を掠めた。


「氷の出るタイミングも条件も分からない…!」


「………」


アイスはマフラーで口元を隠して、背負っている長剣ではなく、腰に携えている方の剣を鞘から抜いた。


「早く。合図を出さないと」


「合図?」


「何をする気!?」


佳乃の問いには答えず、アイスはその場で剣を振り下ろした。斬撃が飛び、地面を抉りながら佳乃へと向かう。


飛んできた斬撃を避け、佳乃は鎖鎌を放つ。


「!!先輩!!!」


それと同時に、蓮の叫び声がした。咄嗟に身を捻ると、後ろから先程避けたはずの斬撃が迫っていた。


「!!」


その斬撃は、アイスの眼前に迫ると音もなく消えた。

佳乃は一旦着地して、アイスから距離をとった。


「今のは…」


「斬撃を操れるみたいッスね」


「そのようね…」


(それに…背負ってる長剣を使わないのも気になるわね…)


どこからともなく現れる氷、操られる斬撃、背負っている長剣。警戒すべき点が多く、佳乃は眉根を寄せた。


「皐月君。ギリギリまで寄るから…仕掛けて」


「文月先輩…捨て身って事っスか?」


「まさか。ギリギリよ」


ここで死ぬ気はさらさらない、といった笑みだった。蓮は頷いて、握っている薙刀の柄に力を込めた。


「いつでもオッケーっス」


「じゃあ…行くわよ」


ダッ、と佳乃が強く駆け出す。アイスがマフラーを掴みながら剣を振るった。


佳乃の足元に氷が槍のように突き出て現れる。斬撃は全て避け、氷は避けずに、力の限り踏みつけていく。


「っ」


ここにきて初めて、アイスが動揺を顕にした。一瞬の隙を狙って、佳乃は鎖鎌を振るい投げた。それとアイスの斬撃が佳乃の背に当たるのは同時だった。


一方、佳乃の投げた鎖鎌は、アイスに当たる事なく、彼の後ろの地面に突き刺さった。


その場にしゃがみ込む振りをして、鎖鎌の鎖を一気に引く。刃の部分がマフラーに引っかかり、マフラーを裂きながら佳乃の手元に戻った。


瞬間、アイスの背後に回っていた蓮が薙刀を振り下ろす。それを回避したアイスはズタズタに切れたマフラーを押し上げて、蓮から離れた。


「 カチンッ 」


蓮の耳に、妙な音が届いた。アイスが何かを噛むように口を動かした際に、その音は鳴った。ピキキッ、と蓮の足元に氷が広がった。


「!」


薙刀を突き立て、それを足場にして氷の広がっていない地面に降り立った。足が凍りついて身動きが取れなくなる事態は回避したが、武器を手放してしまったのは惜しい。


小さく舌打ちしながら蓮はアイスを見据えた。


「残るは。お前だけだ」


「……みたいだな…っ…」


一気に距離を詰め、アイスを蹴り上げる。そのまま連続して蹴りあげた後、回し蹴りに転じてアイスを地に叩きつけた。


ドッ、と地面が一瞬揺れる。着地して間もないまま、蓮は連続して攻撃すべく駆ける。


普段、蓮は薙刀を武器にして戦っている。が、得意なのは素手、接近戦だ。

それは敵を欺くためでもあるが、一番の理由は加減が下手な事だ。


魔物相手にするのだから、手加減する必要はないのだが、周りの建物を巻き込んでしまうので、本来ならば海達から禁じられている。


しかし今は緊急事態だ。大目に見てくれるだろう、と信じて接近戦に転じたのだった。


何より、ここで大事に暴れれば、外に出ていった空にいち早く気付いてもらえるかもしれない。


地面を蹴って身体を捻りながらアイスの頬に肘をめり込ませる。その勢いのまま更に強く捻って整った顔を蹴りつけた。


「 カチッ カチンッ 」


まただ。アイスが口を動かし、音が鳴る。アイスの動向に警戒しつつ、打撃を続ける。

ふと、蓮の足元から氷が勢いよく突き出てきた。その場で一度飛び上がり、突き出た氷を蹴ってその場を凌ぐ。


しかし、その際に蓮とアイスの間に距離が生まれてしまった。


チラッ、と横目で倒れている佳乃を見る。意識はあるらしく、しっかりと目が合った。


「厄介だな…せめて氷の出る法則さえ分かれば…」


顔を顰めていると、バルコニーから二つの影が現れた。目を凝らして見る。侑と美里だ。


「美里は文月を!」


「うむ!」


皐月、と侑が蓮の元へ駆けつける。


「耳を貸せ。アイツの攻略法分かったから」


「!お願いするっス」


侑の言葉に耳を傾けた後、しっかりと頷いた。


「了解っス」


「任せたよ、後輩」


「っス」


先程同様に、アイスに攻撃を繰り出す。斬撃を避け、拳を打ち込む。そして靴に忍ばせてある刃を出し、アイスの双眸を一閃した。


「あ、がぁぁああっ!!!」


喉の奥から絞り出したような叫び声を上げ、アイスは目を押えた。


その隙に、美里の魔石によって介抱され、多少動けるようになった佳乃がアイスの背後からその両腕を切り落とす。


そして蓮が前腕をアイスの口に押し込んだ。強く押し込まれてしまっては舌を噛んで自害する事も出来ない。


足をばたつかせて踠くアイスを鎖で捕縛し、佳乃はその場にへたり、と座り込んだ。


「捕縛出来たのはいいけど…氷とか斬撃とか飛んでこないでしょうね…?」


「その点は抜かりないさ。この攻略の水無月がしかと攻略してやったんだぜ?」


「どういう事よ」


侑はふっ、と口の端を釣り上げた。


「まずは氷を出す条件。それは歯を鳴らす事」


アイスが行っていた何かを噛む動き。蓮が聞いた音の五秒後に、氷が生成される。

アイスはマフラーでその動きが悟られないようにしていたが、佳乃がマフラーを裂いたおかげで、バルコニーにいた侑にも口の動きが見えたのだ。


「そして斬撃を操る条件。これは簡単さ。斬撃を目で追えばいいんだ。瞬きをすれば斬撃は消える」


「なるほどねぇ…というか」


佳乃は立ち上がって侑の頬を力の限り抓った。


「ずっと見てたんじゃないの…もっと早く助けに来なさいよ私死にかけたんだからね…」


「いひゃいよあねしゃん…」


「それより。コイツが言ってた合図って一体…」


蓮の前腕に押され、口を動かせずにいたアイスが、小さく唸った。


「皐月君。離してあげて」


「でも…」


「自害しそうになったら腕押し込んで」


「っス」


蓮が腕を離した瞬間、アイスは軽く咳き込んだ。肩で息をして、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「街、の…ちゅ…心…に…シュ、ネー…が…」


「街の中心にシュネーが…?」


アイスの口元に耳を近づけ、侑は彼が途切れ途切れに言った言葉を反芻する。


「ぁぃ…ず、…も、した…」


「合図、もうした」


「しゅ、ね…の、のぅ…力、で…街が…」


「シュネーの能力で街が…。その続きは?」


侑が聞くも、アイスは意識を失い、淡い水色の靄に包まれ始めた。


「とりあえずシュネー、っていう魔物が街の中心で何かをしようとしているのかしら?」


「そうとっていいかもね…問題はシュネーが何の能力で何をしようとしているかだ」


「…魔物の情報なら弥生先輩達に聞くのが早いかと…一度合流して───」


蓮の言葉を遮って、ドォオンッと激しい音と地鳴りがした。街の繁華街の方だ。


建物が音を立てて、煙を立てて、崩れ落ちていく。人々の悲鳴が、遠く離れた蓮達の耳にもしっかりと届いた。


「あれは…!?」


「どういう事…!?」


蓮達の元へ駆け寄ってきた空と伊央も、繁華街の方を見つめていた。ハッ、と侑が息を飲んだ。


「もし…シュネーの能力が爆発だったとしたら…」


「街の中心にいるんでしょう!?急いで対処しないと…」


「…街なら陸ちゃんの方が近い…連絡して対応してもらおう。卯月ちゃんは文月ちゃんの手当てを。水無月君は連絡して救助要請を。睦月君と皐月君は屋敷の中にいる隊長達の安全確認を。急いで!」


てきぱきと指示を出し、空はスマホを取り出して陸に電話をかける。しかし虚しくコール音が響くだけで、陸が電話に出る気配はない。


「陸ちゃん…まさか巻き込まれてるんじゃ…」


「四季さん!!」


屋敷の扉を押し開けて、宵が躓きそうになりながら走ってくる。その目には薄らと涙が浮かんでいた。


「どうしたの!?」


「り、竜さんが…竜さんの腕がっ…!」


「くそっ…救護班を集めて!人員が確保出来次第僕は街へ向かう!」


スマホを握りしめ、宵の後を追い竜の元へと向かった。



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