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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
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第92話


屋敷の中心部にあるダイニングで、凛子と水色の髪をした少年の魔物の戦いは繰り広げられていた。


凛子は鎌を振るい、けたたましい風切り音を響かせて、少年の魔物を仕留めんと狙う。が、それは空を切るばかりであった。


素早い動く軽やかな足取りでで少年の魔物は右へ左へと避ける。しかし、攻撃に転じる事はなかった。


一度、間合いを図るために少年の魔物は宙を舞って、テーブルの上に着地した。凛子も鎌を構え直しながら、少年の魔物を見据えた。


「君、避け方が尋常じゃない…何者?」


「攻撃を受けるとは、それ即ち死を表すのさ。僕の名はヴィント。その小さそうな脳みそに詰めときな」


軽く苛立ちを覚えるが、敵の挑発に乗る凛子ではない。あくまで無表情を保って、質問を続けた。


「さっき。私に恨みがあるって言ってたね…私、貴方に何かした?」


「何かした?だと…忘れもしない…一年前の事だよ」


一年前、と言われ薄ぼんやりとした記憶の中から、ヴィントの事を思い出そうと頭を捻る。勿論その間も警戒は怠らない。


「うーん…」


「人間の男を食らおうとしていた時だ…お前に邪魔されたんだよ…!」


ビシッと指をさされる。凛子はハッとして目を見開いた。


「貴方…星夜君を襲った!?」


「僕好みの瑞々しい魂だったのに!お前のせいで逃してしまった!!」


「…そういう事…なら…私だって怒ってるんだからね!」


鎌の柄をぐっ、と握り、眉根を寄せた。凛子の恋人を傷付けた、心の中に封じ込めていた怒りが蘇ってくる。


「私の大切な人を傷付けた事…許さないんだから…!!」


「はん!僕にお前の刃が届いたらな!」


ヴィントが左手をくいっ、と上げた。瞬間、ダイニングの中にどこからともなく風が巻き起こる。


竜巻、の勢いとまではいかないものの、目を開けているだけで精一杯だ。目を細めた瞬間、シュッ、と腕と足に痛みが走る。


(この子…風を操れるの…?いや、よく見たら風の中に透明の刃みたいな物がある…)


シャンデリアの光に照らされてキラリと光る無数の刃。それを視認した凛子は地を蹴って風の渦から脱する。その勢いのまま、鎌をヴィントに振り下ろした。


「やぁあっ!!」


キンッ、と音を立てて刃と刃がぶつかり合う。すぅ、と凛子の鎌が、なめらかに流される。


前のめりになっていたのもあり、体勢を崩ししてしまう。その隙にヴィントは、無駄のない動きで剣を突き出した。


「!」


鎌の柄をその場に突き立て、軸にして身体を回した。その勢いでヴィントの横腹を蹴りつける。


攻撃は当たったものの、ヴィントは涼し気な表情で剣を構え直す。


(このままじゃ埒が明かない…体力を消耗しきる前に何か手を打たないと…)


思考を張り巡らせているとふわっ、と凛子の足元から風が巻き起こる。完全に勢いが着く前にその場から離れた。


着地したと同時に、凛子の腕が何かに引っ張られ、勢いよく壁に叩きつけられた。


「うわぁっ!?」


受身も取れずに衝撃を受けてしまう。苦痛に顔を歪めていると、笑みを浮かべながらヴィントが近付いてくる。


「僕もナハトみたく、いたぶってから殺してやりたいけど…生憎そんな時間はないんだよね。だから、奥の手だってさっさと使うよ」


キラリ、とヴィントの指先が光る。その指先の光は凛子の腕へと続いていた。


「…糸?」


「当たり。正確にはピアノ線だけどね。壁に押さえつけてしまえば、鎌を振る事は出来ない」


万事休すか、と凛子は鎌を魔石に戻す。そしてポケットに入っている別の魔石をヴィントに投げつけ、発動させる。全て無事に発動したものの、その全てを避けられてしまう。


「無駄無駄。まぁ安心しなよ。お前の大切だっていうあの男も、すぐに殺してやるからさ」


「っ!!」


剣先が凛子の腹部に迫る。


ザシュッ、と音がして血が吹き出たのは凛子ではなく、ヴィントの方だった。

純白のコートが赤黒く染っていき、数歩後退った。


「ごふっ…な、んで…!?」


凛子の腹部には白い壁のような物が浮いている。防御の魔石を発動させたのだろう。そして彼女の手には槍が握られていた。


「私の武器は…鎌だけじゃない。好きな形状に変えられるの」


「なっ、に…」


「身動きが取れないなら…貴方が向かってくる勢いを利用して待ち構えていればいい…」


「じゃあ…さっき魔石を投げたのも…」


「ただの演技。悟られないためのね」


ニッ、と今度は凛子が笑んでヴィントに歩み寄る。そして槍を再び、鎌に変形させた。


「今度は確実に仕留める…」


「…ふん。馬鹿だと思ってたら…意外と考えてたのか…」


葉月、とヴィントは目を伏せた。鎌を振り上げ、凛子は続きを待った。


「予想より少し大きかった脳みそに詰めといて。君と今まで戦った魔物の中に…僕がいたって事…」


驚いたように目を見開き、凛子はしっかりと頷いた。


「覚えておくよ。ヴィント…ね」


満足気に、ヴィントが微笑んだ。意を決して、凛子は鎌を振り下ろした。ヴィントの首と胴が離れ、姿が消えた。


コロンッと音を立てて魔石が床に転がった。



無言でそれを拾い上げ、ぐっ、と握りしめた。


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