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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
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第9話

食事は毎食とも使用人の人が部屋に運んでくれて、シャワールームも部屋に備え付けられていたため、陽羽はほとんど外へ出ることなく過ごしていた。


たまの数時間の間、幸雄が紅茶を持ってやって来て、軽く話をする程度だった。


そもそも外へ出る気力すら起こらなかった陽羽にとって、その数時間は貴重なものだった。


今日は三日目。幸雄に返事をしなくてはならない日だ。未だに考えがまとまらなかった陽羽は、気分転換に幸雄と庭へ散歩に出たのだった。


「にしても…本当に広いね」


「まぁ…元は研究施設でもあったらしいからな」


「そうなんだ…」


こうしている時間こそ穏やかだが、陽羽が添人となったら話は別だろう。今はまだ『客人』という扱いでしかないのだから。


(あんな人達と戦うなんて…やっぱり怖い…)


恐怖で思わず足が震える。気持ちを落ち着けようと花を見つめていると、背後からサクッサクッと芝生を踏む音が聞こえてくる。


「いたいた。長月!」


「葉月…どうした」


葉月、と呼ばれた少女は透き通るような美しいブロンドの髪をツインテールにまとめ、黄緑色のリボンを付けている。

つり目の大きくぱっちりした目が、少女のようなあどけなさを醸し出している。

年齢は陽羽と近いだろうか。少女は幸雄と言葉を何個か交わした。


「すまない、少し席を外す」


「あ、はい…。いってらっしゃい…」


幸雄が去り、陽羽と少女だけが取り残される。少女はにっこりと笑って手を差し出す。


「私、葉月凛子はづきりんこ!よろしくね!」


「あ、師走陽羽です…よろしくお願いします…」


差し出された凛子の手をそっと握り返す。同じ女の子とは思えない、しっかりとした手だった。


「陽羽ちゃんね!タメ口でいいよ。堅苦しいの苦手だし」


「わ、分かった…」


手を離した後、凛子は陽羽の顔をじっと見つめる。陽羽は何度か瞬きしたあと、一歩後ずさりして問いかけた。


「…あの、何か…?」


「陽羽ちゃんって…長月の彼女?」


にやり、と口の端を上げる凛子。陽羽は慌てて手を振って否定する。


「ち、違います…!長月さんは…えっと…」


「あはは!分かってるよ。長月に彼女なんて出来る訳ないし!」


(え、えぇ…)


ひときしり笑った後、凛子はでも、陽羽に向き直った。


「陽羽ちゃんの事はちょっとだけ聞いたよ。添人候補なんだってね」


「あ…う、ん…」


「…やっぱり怖いよね〜」


「…葉月さんは…添人なの?」


「私は異人。てか凛子でいいよ〜」


凛子はポケットから何かを取り出し、陽羽の掌にそっとのせた。いちご、と書かれたピンクの包み紙に包まれた飴だった。


「?…飴?」


「うん!美味しいよ〜」


「あ、ありがとう…」


何故このタイミングで飴を…、と疑問に思ったものの、好意を無下にしたくなかったので一応礼を言っておく。

一度飴をポケットにしまう。


「異人…って事は…戦うのね」


「まぁね…でも、守りたい人がいるんだ」


少し照れくさそうに笑う。


「…凄いなぁ…」


純粋に尊敬の言葉だった。自分の知らない所で、凛子達は戦っていたのだと。


私達を守ってくれていたのだと。


そう思うと、自分はなんて無力なのだろうと思う。


(決断する事も出来ないなんて…)


「全然だよ。むしろ…私達は添人がいないと何にも…生きる事さえ難しいんだから…」


「え…?」


凛子は咲いている赤い薔薇の花弁をそっと撫でる。その横顔は悲しそうで、辛そうだった。


「…暗い話しちゃったね!忘れて!」


先程と同じように明るく笑う凛子を見て陽羽は何も言えなかった。


励ましてくれたのか、何かを察して欲しかったのか。陽羽には分からなかった。


「でも思い詰めなくていいんだよ。嫌なら嫌でいい。長月も怒らないよ」


「………」


凛子は陽羽の両頬を手で挟み、顔を上げさせた。


「んぇ!?」


「ほら笑って!陽羽ちゃんは可愛いんだから!俯いてちゃダメだよ」


凛子はそう言って歯を見せて笑う。つられて陽羽もふっ、と頬を緩めた。


「うんうん!可愛い!」


「…もう少し考えてみる…ありがとう、凛子ちゃん」


「私は何もしてないよ。じゃあ、私はこれで!またね!」

手を振って凛子は屋敷の中へ戻って行った。その背を見送って、凛子の姿が見えなくなってから空を見上げた。


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