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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
87/204

第87話

三時を知らせる鐘が鳴り響く。城から離れた山の麓でもそれはしかと耳に入った。


洋子が先頭に立ち、フェブルアールが用いたと言われている矢を見つめた。



───洋ちゃん。その矢に魔力を注ぎ込んで。



洋子の頭の中にフェブルアールの声が響いた。静かに頷き、洋子は弓を構えた。

後ろでエーラや、転送魔法を使える魔物達が固唾を飲んで見守る中、まっすぐに城を見据えた。


「…フーちゃん…」



───うん?



「長月君は…大丈夫かなぁ…かなり思い詰めてたと思うんだけど…陽羽ちゃんも」



───余計な事は考えない。仲間を信頼出来ない洋ちゃんじゃないでしょ?



口元を弛め、目を凝らして弓を引き絞った。ギッと耳元で音がする。矢に魔力を込めて、放った。


魔力を宿した矢は勢いよく目標に向かって飛んでいく。残風が洋子の髪を揺らした。


目を凝らして矢を追いかけると、放った矢は城の屋根を貫いた。


「届いた…!」


城の屋根が崩れるのが見えた。と、同時に黒い光も。


「洋子さん!こちらへ!」


「はい!」


エーラの指示に従って後方へ退く。


エーラの手を握ると一瞬で視界が変わった。薄暗い地下空洞へ移動した途端、激しい地鳴りが起こった。


アルターの放った魔弾が、先程まで洋子達がいた所へ落ちたのだろう。しばらくして揺れが納まった頃、洋子はエーラと顔を見合わせた。


「成功はした…はず」


「問題はアルター様の魔力をどれだけ削れたか、ですね…」


「一度、上へ上がってみましょう」


反乱軍の者達は地下道から城へ向かうらしい。洋子とエーラは先程と同じ場所へ移動する。


「これは…!」


更地だった。


見た目は美しくなかったとはいえ、草木が生えた山の麓…はおろか山ごと。初めから何も無かったかのような惨状だった。


微かに残った洋子の腰くらいまでの高さの木も、静かに燃え去っていく。そんな中、エーラの落ち着いた声が洋子の耳に届いた。


「この規模なら…3分の1は確実かと…」


「いや、4分の1くらいやろなぁ」


洋子とエーラ以外の声がした。はっとして振り向いた時にはもう遅かった。


洋子の身体は立っていた場所から数メートル飛ばされ、地面に叩きつけられていた。


「ぐぁっ…!!?」


「洋子さん!」


エーラが懐から取り出した小刀を構える。声の主である男性に振りかかるも、虚しく風を切る音だけが響く。


やがて小刀を弾かれ、胴が空いた瞬間に鳩尾を殴られる。

込み上げた血反吐を吐き出し、エーラはその場にうずくまるようにして倒れた。


「ヤーレス…、ツァイト…様…」


苦しげに発せられたその名前の主は、目を細めて笑う。


「随分おもろい事してくれたやん?反乱?にしては規模が小さないか?」


体制を立て直した洋子が放った矢を軽々と避け、ヤーレスツァイトは洋子の頬を蹴りつける。その拍子にかけていた眼鏡が外れ、音を立てて地面に落ちた。


「ぅぐっ…!!」


「女の子殴るんは趣味とちゃうけど…堪忍やで。さてと」


ヤーレスツァイトはエーラの腕を掴んで、無理矢理立たせる。鳩尾を蹴られた余韻が残っているエーラには、立ち上がるだけでも苦しかった。


「アルター様に報告しなあかんし…着いてきてもら───」


ヒュンッ。という音と共に、エーラの腕を掴んでいたヤーレスツァイトの腕が消えた。


勢いよく回って、ヤーレスツァイトの腕が地面に落ちた。それをゆっくり視認すると、視線を気配のする方向へ向けた。


「女の子に乱暴するのは…同じ男としてどうかと思うよ?」


「せやから堪忍やけど、って言ったやないかい」


「どんな理由であれ、それは許される行為ではないさ」


不敵な笑みを浮かべ、エーラを抱き抱えた澪は薙刀を片手に握りしめた。


「澪さん…」


「エーラちゃん、立てる?」


「は、はい…」


「───」


澪はエーラに小声で耳打ちした。頷いたエーラは腹部を抑えなが、ゆっくりと澪から距離をとった。

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