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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
86/204

第86話

エーラの家のリビングに幸雄、海、洋子、澪、舞夜エーラがテーブルを囲んで立っている。


それぞれが神妙な面持ちで、テーブルの上に広げられている地図を見つめる。魔界の世界地図だ。山の麓を示す部分に赤いペンで丸が書かれている。


「今日の三時を鳴らす鐘と共に、ここで反抗声明を発表します」


「城に攻め入るのではないのか?」


海の問いにエーラは静かに首を振った。


「アルター様の魔力を削ぐのが先決ですから…そこで、洋子さんにお願いがあるんです」


「私?」


首を傾げる洋子に、エーラは布に巻かれていたある物を手渡す。洋子が布を広げると、中身は一本の矢だった。黒く硬い"何か"で作られているらしい。


「…これは?」


「ディツェンバー様の部下…フェブルアール様が用いた伝説の矢です」


洋子にはフェブルアールの魔力が埋め込められている。箆に手を触れると、妙にしっくりと手に馴染む。フェブルアールが用いたというのは本当らしい。


「鐘が鳴ったと同時に、城目掛けて矢を放ってください」


「………」


ぐっ、と矢を見つめ、洋子は頷いた。


「任せて」


「はい」


「私が能力を使って暗殺を試みるのも考えたのですが…あえて正面から奇襲をかけた方がいいかと」


エーラの能力は"気配遮断"。魔力を包み隠し対象に接近する、暗殺に長けた能力だ。

しかし、目標が城の中にいる以上、大勢の魔物の警備をくぐり抜けるのは難しい。


そしてエーラは幸雄達の実力を信じていた。彼らなら必ず、アルターを仕留めてくれる、と。


でも、と澪が眉根を寄せる。


「それで本当にアルターの魔力が削げるのかな?彼が直々に対処するとは考えにくいような気がするんだけど…」


「ご安心を。以前にも反乱軍が街角に現れた際、城から魔弾を放つのを確認しましたから…。魔弾を放ったと同時に転送魔法で地下へ移動しますし、洋子さんもご心配なく」


アルターの気性が荒く、意に反する事があれば真っ先に行動するのは目に見えていた。エーラは力強く頷いて澪を見つめ返した。


澪もふ、と肩の力を抜いた。


「…分かった。信じるよ」


「それで、魔力を削れたとしよう。俺達はどうすればいい」


「海さんと幸雄さん、澪さん、ノヴェンバー様は…───」









城の中に鐘が鳴り響く。


少女は長い階段をふらふらとした足取りで歩く。大きな宝石のような瞳に光はなく、暗い影が落とされていた。


階段を登りきり、分かれ道になっているのに気付くと、艶やかな腰まである銀色の髪をさらりと揺らしながら、顔を動かす。


「………」


表情を変えずに少女は再び歩き出す。



ふと、城が揺れた。



立っていられない程の強い揺れが、足を伝い全身に響き渡る。思わず壁に手をつく。地震ではないらしく、一瞬で揺れは収まった。


壁から手を離し、再三歩き始める。


唇に薄らと弧が描かれているのは、少女はおろか、すれ違った魔物───だったもの達も知らない。


壊す(殺す)壊す(殺す)壊す(殺す)……。ふふっ……あの男(アルター)を…壊さ(殺さ)なきゃ…」


譫言のように呟きながら、少女は歩いた。

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