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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
85/204

第85話


目を開ける。今度は真っ黒ではない。ここ最近ずっと目にしているベッドの上からの光景。


キラキラと輝くシャンデリア。黒い壁。床には赤いカーペットが敷かれている。


はぁ、とため息が漏れる。


ゆっくりと身体を起こす。身体の痛みも治まり、自然と身体を起こす事が出来た。すると部屋の扉がノックされた。


返事を待たずに扉が開けられ、アルターが入ってきた。


「あ…っ…」


思わず身を引くが、身体が震えて上手く動かない。アルターは陽羽の腕を掴んで引き寄せ、陽羽の腰に手を置いた。


「や…嫌っ…」


恐怖で心臓が早鐘を打つ。アルターはそのまま陽羽を押し倒した。視界が急転し、どくん、と脈打つ。


先日の恐怖が、痛みが、蘇ってくる。


「…ふ、くくっ…」


アルターは陽羽の胸元へ手を伸ばす。早くなっている心臓の辺りに指を這わせ、心底可笑しそうに笑う。


「魔力が変質したか…くくくっ、兄を殺した時以来だな…こんなにも愉悦を感じるのは」


「…お兄さんを…殺したの?」


「あぁ。初めは魔界を追いやり…つい先日。殺してやったわ」


陽羽を見下ろして嘲笑する。


「しかし驚いたな…アイツに娘がいたとは…」


「え…?」


アルターは笑みを深めて言った。


「俺の兄…ディツェンバー…。人間界での名は…師走満しわすみちるといったか」


「……お父さん…が…?」


「まさか、ヤーレスツァイトが連れてきた妃候補が、姪だとはな。まぁいい。魔力を抜きにすれば俺の好みだ」


「な、何を言って…っ…!?」


唇が重ねられる。


押し付けるような。一方的な口付けだった。


陽羽は口を固く結び、目を閉じた。しかしアルターはお構い無しに舌を捩じ込んでくる。


「んんっ…ぐ…」


気持ち悪い、嫌だと心が叫ぶ。堪えきれずに、陽羽は思いっきりアルターの舌を噛んだ。


「っ…ほぅ。いい度胸だな、女…」


「…わ…私は…貴方の妃になんてなりません…!」


「…"長月君"がいるから…か?」


「………」


言われて押し黙ってしまう。「そう」とは言いきれないのが実のところだ。陽羽と幸雄の関係は添人と異人だ。


(私が片想いしてるだけで…それ以上でもそれ以下でも無い…)


「無言という事は肯定を意味する。女、その無意味な希望を捨てたらどうだ?」


ずいっ、と顔を近づけられる。


「貴様が連れ去られてそこそこ経つが…助けも来ないのがその証拠だろう。いくら助けを求めても無意味だとは思わないか?」


「そんな…事…」


「無いのか?」


「………」


声を張り上げて無い、と言いたい。しかしその言葉は陽羽の口からは出なかった。

扉がノックされ、扉の外から声が聞こえてくる。


「アルター様。謁見でございます」


「…あぁ」


アルターは陽羽から身体を離す。部屋を出る直前、陽羽を一瞥したが、声を掛ける事もせずに出て行った。


張り詰めていた緊張が溶け、身体の力が抜けてベッドに沈み込むように息を吐く。


「…来て…くれるよね…。長月君…」


希望を捨てたくはない。



けれど、もう限界だ。



心がポッキリと音を立てて崩れそうだ。心が闇に包まれていくような。もう涙も浮かんでこない。


幸雄を待つ一方で、いっその事どん底に落ちたいと思う。


「……もう…やだなぁ……」


何となく呟いた言葉は黒い靄となって、陽羽を包み込むように現れた。


何故、こんな思いをしなくてはならないのだろうか。


何故、私なのだろうか。


何故、こうなったのだろうか。


何故、何故、何故、何故、何故!!!


心が黒く染め上げられていく。頭がどんよりと重くなる。




怒りが、憎悪が、殺意が芽生える。




そうだ。全て全て全て。


全部。全部。全部!!!あの男(アルター)のせいなのだ。


全ての元凶を。許してはいけない。





───壊さ(殺さ)なきゃ。私が、壊して(殺して)あげなくちゃ。これ以上、誰も苦しまないように。───




「ふふっ……あはは………壊して(殺して)…あげる…」



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