第84話
エーラは人数分の紅茶を淹れ、盆に乗せてテーブルへ運ぶ。
「早速本題に入ろう。第一にアルターの魔力を減らさねば、どうにも出来ない」
「でもそんな方法あるの?」
腕を組み、海は押し黙った。思い当たる節は無いらしい。
しばらくの間沈黙が続いたが、ふと洋子があ、と声を上げた。
「魔力を取り込んだって…ようは私達みたいな状態ですよね?」
「!魔力を埋め込んだのと同義」
異人は週に一度、埋め込まれた魔力が分離しないように、添人の魔力を接着剤代わりにして対処している。
アルターが部下から取り込んだ魔力は異人のそれと同じだろう。
「問題はどうやってそれを取り除くかだ…」
再び沈黙が訪れる。
「…大量に消費させる…とか?」
エーラが呟く。
「どうやって?」
エーラはしばらく考え、意を決したように頷いた。
「あまり大声では言えないんですが…反旗を翻そうと、密かに動いている組織があるんです。私もその一人…」
エーラ意外の全員が驚きを露わにする。エーラは拳をぎゅ、と握り決意のこもった目を向けた。
「私が掛け合います!反乱を起こした隙に陽羽さんを…!」
「だ、大丈夫なの?」
「…はい!何とかしてみせます。そうと決まれば、早速行ってきます」
準備を始めたエーラに、澪は後ろから話しかけた。
「ありがとう。エーラちゃん」
「…澪さん…た、大した事は…」
「君には感謝してもしきれないよ…。長月の事もだ。アイツ、陽羽ちゃんの事大好きなんだよ」
声色からは茶化しているように聞こえるが、澪の表情は柔らかいものだった。
幸雄に感情を教える役の澪にとって、喜ばしい成長であった。
エーラはその横顔を見つつ、鞄を肩にさげた。そっと頷いて、玄関へ向かう。
「家の中では自由にしててくれて構いませんので。行ってきますね」
「あ、エーラちゃん。本当にありがとう。無理はしないで」
「…は、はい…」
家を出てすぐ、エーラは走り出した。
水に沈んでいくような。
身体がふわふわして感覚が無い。
ゆっくりと目を開け、その場に立ってみる。無重力のようで、縦も横も分からない。
が、一面真っ黒だった。しかし息苦しくもなければ、不快感も無い。
(……何だろう…)
思えば少し居心地が良いような気もする。身を委ねてしまいたいと。
─駄目だよ。
閉じかけた目を開ける。
「…誰?」
呼びかけるも返事はない。陽羽は再度辺りを見渡した。
「居心地は良いかもだけど…何だか…気持ちが悪いな…」
心が少しモヤモヤする。それでも…今だけ。
(今だけ…)
牽制する声を無視して目を閉じた。




