第83話
「つまり、俺達の中にある魔力は、ディツェンバーの部下の…」
「そういう事だ。そして、舞夜はディツェンバー直属の部下、名をノヴェンバーという」
舞夜がそっとお辞儀をする。
「そして師走陽羽が…宇宙とディツェンバーの間に生まれた子だ。間違いない」
断言する海に、口を挟む者はいなかった。皆理解していたのだ。陽羽の持つ魔力は特殊だと。
幸雄はギュッ、と布団を握りしめた。
(結局…アルターの言った通りだったのか…)
幸雄の様子を察してか、海はおもむろに立ち上がり、何も言わずに部屋を出て行ってしまった。
「………」
洋子、舞夜もその背を追いかける。澪だけは幸雄の座っているベッドに腰掛ける。
「…どうしたよ。そんな暗い顔すんなって」
「………」
幸雄が口を開こうとすると、部屋の扉がノックされる。
入ってきたのは魔物の少女だった。
黒い艶のある髪を三つ編みにまとめ、そばかすが特徴的だった。魔物にしては穏やかそうなタレ目で、視線も柔らかかった。
「怪我の具合はどうですか?」
「エーラちゃん。見てやって。俺、お手洗い借りるね」
「はい!」
エーラと呼ばれた少女は、今まで澪が座っていた椅子に腰掛けた。
「私はエーラと言います。初めまして」
「長月幸雄だ。手当をしてくれたのは…貴方で合っているか?」
「はい。僭越ながら、治癒魔法で」
「痕もなく治っていた。ありがとう」
エーラは恥ずかしげに微笑んだ。
聞く所によるとエーラは反アルター派との事。人間である幸雄達を家に招き入れ、匿ってくれたらしい。
「あの…一つお聞きしてもいいかしら…?」
「…何だ?」
エーラは膝の上で手を組んで、視線を逸らしながら聞いた。
「その…ずっと寝言で陽羽、って名前を呼んでいたから…どんな子か気になって」
「………」
幸雄は少し考えて、目を細めた。
「目が大きくて睫毛も長くて…美人、って印象だったな。なのに赤くなった顔は可愛いんだ。何より…優しい」
「…素敵ね…彼女さん?」
彼女、という言葉に胸が一瞬どきりとした。
「………違う」
しかし否定した瞬間、どきりとした胸が少し傷んだ。
「じゃあ好きなの?」
「………」
「違うのですか?」
幸雄は目を伏せて、拳を握った。
「大好きだと…思っていたはずだった。大切にしたいと思っていた…だが…大切なはずなのに、これが俺の感情なのかゼプテンバールの感情なのか、…分からないんだ…」
「…あ。貴方…ゼプテンバール様の魔力を持っているのね…」
エーラはゼプテンバールを知っているらしい。懐かしい、と目を細めた。
「…陽羽は…ディツェンバーの魔力を持っているらしい」
エーラは目を見開いて、息を飲んだ。
「…確かに…それは難しいわね…。ゼプテンバール様は、ディツェンバー様の側近でもあったし…忠誠心はお強いと思うわ…」
アルターが言っていた事は、恐らくそういう事だろう。
「でも…忠誠心と大切にしたいという思いは…別物だと思うわ」
戸惑う幸雄にエーラは真っ直ぐ向き合った。
「答えは貴方にしか分からない。でも、大切だと思っているなら、大切なんだよ。大切だと思えてる。それはきっとすごく尊い事のはずよ」
エーラは柔らかな声でそう言った。幸雄ははっ、と目を見開いた。
「………そうか…」
胸にそっと手を当てる。
(陽羽…俺は陽羽を…)
聞きにくそうにエーラは続けて問いかけた。
「…その…陽羽さんは?」
「今は…アルターに捕えられているらしい」
「!アルター様に…!?」
エーラの顔が引き締まる。アルターの性分はエーラも知っているらしい。
(今の魔界を納めているのだから…当然か)
「アルター様には…御自身の部下の魔力を取り込んだって噂があります。きっとそれは本当です…」
「あぁ。本人もそれらしい態度をしていた。それと…ゼプテンバールも言っていた」
エーラが重いため息を吐く。
だが、と幸雄はベッドから下りてゆっくり立ち上がる。
「陽羽は…俺に助けを求めていたらしい。なら…助けに行かなくてはな」
エーラも立ち上がり、力強く頷く。
「そういう事でしたら…私も力になります…!」
「!しかし…」
「お任せ下さい!」
断ろうと思ったが、エーラの目には強い意志が宿っていた。頭を下げて礼を言う。
「…ありがとう。助かる」
「陽羽さんを…必ず助けましょうね」
「…あぁ…」
───陽羽。必ず助けるから…待っていてくれ。
窓から見える城に視線を向ける。ぐっ、と唇を噛んで、拳を握ったのだった。




