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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
80/204

第80話

二十年前。


高校二年生だった海は、陸と空と共に師走宇宙しわすそらという研究員の女性の元で、政府より命じられ、研究を行っていた。


研究というのは、近年増加してきた魔物による殺人事件を食い止めるべく、魔力を持たない人間に魔力を持たせる、といったものである。


既に研究は進んでおり、海等が研究に加わった頃には、埋め込む魔力を得るだけであった。


コンクリの床にチョークで魔法陣を描く。四方にそれぞれ立ち、詠唱を唱えると勢いよく風が巻き起こった。魔法陣が光り、余りの眩しさに海は目を閉じた。


風が納まった頃に目を開けると魔法陣の中心に一人の男性が立っていた。


輝かしい白銀の髪に、緑色の切れ長の瞳。穏やかながらも威厳のある風格を纏っていた。しかし服の至る所が破れ、手に握られている剣には生々しい血が付着していた。


「……凄い…成功した…!」


淡い桃色の髪を揺らして、宇宙は男性の周りをぐるぐると回る。


「なんて膨大な魔力!四人がかりでもギリギリだったんじゃない?」


「そ、宇宙さん!」


空が牽制するも、宇宙は目を輝かせて耳を傾けようともしない。男性は何度か瞬きを繰り返し、やがて口を開いた。


「我が名はディツェンバー。魔界の王だ」


「ま、まま…魔界の…王様…?」


目を見開いて陸は呟く。へなへなとその場にしゃがみ込み、ディツェンバーと名乗った男性を見上げた。


「とはいえ。もう前王、になるのかもしれませんが…」


「?どういう事だい?」



「私には一人の弟がおります。その弟に、殺されかけたのです」


近くに置かれていた椅子に腰掛けながら答えた。


「謀反を起こされた、という事か?」


海がそういうと、困ったようにディツェンバーは頷いた。


「我が下僕達も殺され、魔石だけの存在となった。ある意味、今回の召喚は助かったとも言える」


礼を言う、と王らしい威厳を保ったままディツェンバーは笑んだ。


「さて、余談はこの位にして。此度の召喚、何が目的だ?」


「私達は…普通の人間に魔物の魔力を移植して、人工的に魔人を生み出そうと思ってるの」


好奇心に満ちた言動から一転、凛とした声色で宇宙はディツェンバーに告げる。ディツェンバーは眉一つ動かさずに、ふむ、と頷いた。


「目的は?」


「近年、魔物による事件が増加した。人間界に現れてる魔物と対処する魔人の数を比べてもは圧倒的に少ないわ。このままじゃ、人間界と魔界、どっちにも不利益が生じるわ」


「………」


「現在は本格的に魔人を育成するプログラムも組まれてる。その魔人を先導する存在として、人工的に生み出した魔人を立たせたいの」


「…何故わざわざそんな面倒な事を?」


「魔人は生まれ持って魔力を有している。けれど、それだけじゃ足りないわ。魔人は言い方を変えれば魔法使いなの。前衛に立てる人は少ない…」


「把握した。して、人工的に生み出す手筈は?」


「とある孤児院の子供達…計十名を予定しているわ」


先日、職員による虐待が判明した孤児院の子供達を、宇宙が引き取ったのだ。


(けどそれは…人体実験と同じだ…)


分かっていた事だが、海は止めなかった。止められなかった。

非人道的であるとはいえ、それが世間にとって重要な事であり、異例として認められた事だったからだ。


「リスクは?」


「今の所ないに等しいわ。その後のケアも組み込まれてる」


「………」


長い沈黙の末、ディツェンバーは口の端を上げた。


「良いだろう。こちらとて、魔界と人間界が悪く影響し合うのは避けたいので」


ディツェンバーの返答を聞いた宇宙は嬉しそうに顔を綻ばせた。空と陸も安心したように息をつく。


海はというと、一人、ディツェンバーを見つめていた。



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