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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
78/204

第78話


──痛い。


痛い苦しい痛い痛い、助けて誰か嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!


ハッ、と目が覚める。景色は昨日と変わらず、ベッドの上から見えるシャンデリアが初めに目に入った。


汗で服が張り付いて気持ち悪い。シーツをぎゅっ、と握り歯を食いしばる。


(痛い…痛いよ…)


自然と涙が零れる。


身体中が痛くて痛くて動けない。唇には噛んだ痕が残り、血が滲んでいる。

爪もそうだった。引っ掻いた時についた血が残っていて、爪も割れていた。


扉がノックされ、身体が一気に強ばる。中に入ってきたのはアルターでもヤーレスツァイトでもなく、金色の髪をした魔物の女性だった。


どことなく落ち着いた雰囲気も持っていて、一礼してからティーワゴンを押して入ってきた。


ベッドの横にティーワゴンを止め、横になっている陽羽と目線を合わせるようにしゃがんだ。


「お身体の調子はどうですか?」


「………」


女性は眉尻を下げ、紅茶を淹れた。ほんのりと懐かしい香りが漂い、緊張感が少し解れる。


「どうぞ。起き上がれますか?」


「…はい…」


身体を起こすと激痛が走る。それを女性に悟られないように隠し、カップを受け取った。

しかし上手く力が入らずカップを落としてしまう。


幸い身体には掛からなかったが、音を立ててカップは割れ、紅茶も床に零れてしまった。


「あっ、ご、ごめんなさい…!片付けますので…」


ベッドから下りようと立ち上がると再び激痛が襲いかかり、その場に崩れ落ちてしまう。


「…人間って…脆いんですね」


女性が呟いた言葉はそれだった。


「え…?」


「弱いくせに下手に強がって…馬鹿みたい」


カップの欠片を手に集め、やれやれとため息をつく。割れてバラバラになっていたカップがひとりでに揺れ、元の形を成していく。


やがて元通りになったそれはティーワゴンに戻され、新しいカップに紅茶が注がれる。。


「飲めそうですか?」


「………だ…。もぅ…嫌…っ」


床に大粒の涙が零れ落ちる。声を押し殺すが肩が震える。自身を抱き締めるように腕を組む。


「…何故、泣くのですか?」


女性は心底不思議そうに首を傾げた。俯いたまま陽羽は答えた。


「…こんな…汚れた身体で…っ、長月君に会えない…会いたくない…」


「でも貴方。寝ている間、ずっとその方の名を呼んでいましたよ」


「……助けに、来て欲しいんです…」


「なら何故」


「嫌なの…!!好きな人に…こんな私見られたくないの!!」


心からの叫びだった。陽羽もあまり感情を露わにする方ではない。普段淑やな陽羽が悲鳴に近い声色で振り立てた。


「あぁ…貴方、処女だったんですね」


真顔で言われて、カッと顔が熱くなる。


「確かに、魔力を持つ者は童貞処女を失うと、相手の魔力に感化されますしね…。汚れたも同然か。事実、貴方の魔力にアルター様の黒が混じってます」


「…そんな…じゃあ私…死ぬまでずっと…?」


(ずっとあの人に囚われるの…?)


底知れない絶望感に溺れそうになる。自身の両手を見下ろし、込み上がる吐き気をぐっと堪える。


「…私には分かりません。そんなに初めてが大事ですか?」


「大事に決まってる…本当なら…私だって初めては好きな人が良かった…」


「…生きていて良かった、とは思わないんですか?」


女性の言葉にハッと顔を上げる。


「生きていれば、次は想い人と交接出来るやもしれないのに。命があるのですから、それでいいのでは?」


「………」


「そんなに大事ですか?」


二度、女性は問うた。

陽羽には答えられなかった。生きていて良かった、とは思う。しかし何故生きている、とも思う。混ざり合って頭が痛くなる。


女性はベッドの横に置かれておるテーブルの上に、紅茶を淹れたカップを置き、陽羽を抱き上げベッドに戻した。


「あ、ありがとうございます…」


「食事を用意します。暫しお待ちを」


一礼して女性は去って行った。涙を拭い、手に力を集中させて紅茶を口に運ぶ。


「…美味しい…。…長月君…」


紅茶を飲むと思い出す幸雄の姿。カップをテーブルに戻し、目に浮かぶ涙を服の袖で擦った。

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