第76話
陽羽の姿が消えた日の夜中に、緊急会議が開かれた。
空のよると、陽羽の魔力は人間界に無く、存在ごと消えてしまったらしい。
現状を聞かされた海の表情はいつも以上に厳しいものだった。
が、それ以上に幸雄が穏やかではなかった。
部屋に閉じこもったまま、ノックをしても返事が返ってこない。
幸雄の部屋の前には各隊長が集まっており、凛子を筆頭に幸雄に呼びかけを続ける。
どれ位の時間が経っただろうか。痺れを切らした佳乃が扉を勢いよく蹴破った。
掛けられていたチェーンが虚しく床に落ちる。
佳乃は大股で幸雄に詰め寄り、力の限りで幸雄の頬を叩いた。パァン、という乾いた音が響き、驚いたように幸雄の隻眼が見開かれた。
「いい加減になさい!!ショックなのは分かるけど、貴方がそんな調子でどうするの!!」
「文月さん…!」
洋子が止めに入るが、佳乃は構わず続けた。
「前にも言ったわよね?陽羽ちゃんに一番身近な存在の貴方が落ち着いていないといけないの!」
「落ち着ける訳がないだろ!!」
初めてだった。幸雄が声を張り上げて、感情のままに叫んだのは。立ち上がって佳乃の胸ぐらを掴んだ。
「陽羽の魔力が人間界にないとか言われて…落ち着ける訳がない!!こんな事が起こらないようにずっと近くにいたのに…結局少し気を許したらこうなった!!全部俺のせいだ!」
「………」
「とりま離せって!」
澪に取り押さえられ、幸雄は佳乃から手を離した。肩で息をする幸雄を見つめながら、佳乃はシャツの皺を直し、ふぅ、と息をついた。
「…違うの。責めたい訳じゃないの。陽羽ちゃんを大切に思っている貴方がやる気出さないと、私達も全力で動けないのよ」
「………」
「…なぁ」
気だるそうに口を開いた竜は、腕を組んで壁にもたれかかった。
「これは自論だけどさ。自分の大事なものが横取りされそうになったならさ、奪い返すのが筋ってもんじゃない?」
「………?」
首を傾げる幸雄に、空が眼鏡を掛け直しながら言った。
「陽羽ちゃんを取り戻すために、魔界へ行ってもらう事になったんだよ」
「メンバーは俺、長月、如月、神無月、霜月だ。他の者はここで待機だ」
海は幸雄の胸ぐらを掴み、声を荒らげた。
「決めろ!!戦って取り戻すか!!ここに残って卑屈になっているか!!己で決めろ!!」
月明かりのような瞳と、宝石のような琥珀色の瞳が交わる。幸雄は海の腕を掴んで、無理矢理引き離した。
「行くに決まっている!!」
「…よし」
不敵な笑みを浮かべ、各隊長等を見渡す。そして声を張り上げた。
「直ちに魔界へ向かう。着いてこい!」
「御意!!」




