第70話
「魔物や部下に"逃げの弥生"なんて言われて…恥ずかしくないんですか!?」
赤い絨毯が敷かれた廊下で、クリーム色のふわふわとした髪をまとめた少女が、腕を組んで上目遣いでそう口にする。
ピンクの縁の眼鏡が、キリッとした真面目さを醸し出している。その奥にあるオレンジ色の瞳には一点の曇りもなく、心を透かすかのような真っ直ぐさがあった。
少女の向かいに立つ青年は、眠そうに目を細めて頭をかく。
「…アンタ…誰…?」
欠伸混じりに言った青年は、こてん、と首を傾げた。
陽羽が屋敷に訪れる二年程前。
高校一年生になった夏木宵は、真新しい高校の制服に袖を通し、鏡の前でにっこりと笑ってみせた。
「…大丈夫。試験には合格したんだから…」
宵の言う試験とは、高校受験の事ではない。魔物殲滅隊の新入隊員試験の事だ。
主に筆記、実践での試験をクリアし、宵は本日から四番隊に所属するのだ。
「隊長さんは私と同い年か…凄いなぁ…」
聞くところによると、四番隊は魔石の扱いに長けた者達が集うらしい。魔力を持つ家系の元に生まれた宵にとっては、当然といえる配属に納得していた。
さて。本日の仕事は見回りでも魔物の討伐でもない。新入隊員の顔合わせだ。
これは仕事といえるのだろうか。しかし、他人とのコミニュケーションは必要だ。嫌々でも参加しなければ浮くのは必然。
身だしなみを整え、指定された会場へ向かった。
会場に着くと、『四番隊 夏木宵』とかかれた名札を手渡された。それを制服のブレザーの胸元につけ、適当にホール内を歩いてみる。
新入隊員、といっても年齢は様々だ。それこそ宵と同じ十代らしき少女少年青年もいれば、四十代位の女性男性もいる。
魔物殲滅隊が設立されてまだ数年なのだから、年代にバラつきがあるのは仕方のない事なのかもしれないが。
「あーテステス…。コホン。新入隊員の皆様、本日はお集まり頂き、ありがとうございます。魔物殲滅隊司令官、四季空と申します。
本日は各隊長の紹介等、司会を務めさせていただきます。よろしくお願いします」
毛先の白い茶髪をしていて、水色の鋭い目で宵達を概観する。黒い生地に白いラインの入った制服。胸元にはいくつかの勲章が付けられている。
(あの人が司令官…若いのね)
「指定された席に着いてください。それぞれの隊の円卓テーブルに名前があると思いますので」
マイク越しの声を聞いて、きょろきょろとテーブルを探す。
四番隊、と札が立てられたテーブルに移動し、自分の名前がかかれた札が置かれている席に座る。
他の新入隊員は宵を合わせて五人と少なく、互いに視線を合わせようとしなかった。




