第7話
翌日の昼頃。
幸雄は紅茶とカップケーキを乗せた盆を持って、陽羽の部屋へ訪れた。部屋へ幸雄を入れ、向かい合って座り、紅茶を飲む。
「…美味しい…」
「それは良かった」
幸雄も紅茶が好きなのか、陽羽よりも飲むペースが早い。陽羽はフォークでカップケーキを一口、口に運んだ。ふわふわとした食感で、仄かにレモンの味がした。
「このカップケーキも美味しい…」
「…師走は…紅茶とか好きなのか?」
「…はい、たまに飲む程度なんですが…飲み物の中では一番好きです」
「そうか」
そういえば、と陽羽は気になっていた事を聞こうと、フォークを皿の上に置いた。
「あの、以前私を運んでくれた…あのお家は…?」
あの黒い家具が印象的だった家は、この屋敷から少し離れた繁華街の近くにあった小さな一軒家だった。
幸雄がこの屋敷で暮らしているのなら、あの家は幸雄ではない別の誰かの物ということになる。
「…俺の上司の家だ。滅多に帰らないから、好きに使っていいと言われている」
「そ、そうだったんですか…」
(申し訳ない事しちゃったなぁ…)
その上司の方にも礼を言わなくては、と思いながら紅茶を飲んだ。
「この屋敷は、基本部外者立ち入り禁止だからな。上司に許可を貰って借りてた。だから気にしなくていい」
「いえ…ありがとうございます…」
この屋敷が部外者立ち入り禁止の理由は察しがつく。魔物殲滅隊の隊長や、その他隊員が住まうのだから、機密事項や部外者には悟られない何かがあるのだろう。
なので現在、三日間限定とはいえこの屋敷に無償で泊めてくれているのは、大変珍しい事なのだろう。
「長月さん…あの、私…」
「?」
「早く…出て行った方がいいですよね…?」
幸雄は特に驚く様子も見せず、紅茶を流し込む。
「三日間は無償で泊める、と言ったはずだ。まだ時間はある」
「ですが…」
幸雄はカップを置いて、陽羽の目を真っ直ぐに見つめた。
「無理はするな。自分のしたいようにすればいい」
「………」
たしかに、こんな半端な気持ちでは、野垂れ死ぬのは目に見えている。ここは幸雄の言う通り、じっくりと考えるべきだろう。
「…分かり、ました…」
陽羽がそう答えると、幸雄は満足そうに頷いた。
幸雄のカップに注がれる紅茶を見つめながら、陽羽はぼんやりと考えた。
(戦うのは…嫌だなぁ…でも、生きていけるのかな…)
そんな不安を誤魔化すかのように、紅茶を飲み干したのだった。




