第68話
校舎の壁を蹴って、突き出された槍を避ける。
昼の槍は地面に深く突き刺さり、その隙に陽羽を下ろし、刀を取り出した。
「宮下。まさかお前が魔物だったとはな」
「…ふん。私の一族は、化ける事が得意なの。勿論、人間になる事もね」
槍を引き抜き、不敵な笑みを浮かべる。
「師走陽羽。貴方の特殊な魔力、私が頂くわ」
「昼ちゃん…」
陽羽は何かを言おうとしたが、ぐっと唇を結んで昼を睨んだ。
「…っ…」
大切な友人だとしても、魔物であるならば敵だという事だ。現に、昼は陽羽と幸雄に敵意を出して、攻撃を仕掛けてきた。
魔物殲滅隊として、平穏を守るものとして、陽羽と幸雄はここで昼を処分しなければならない。
それが、二人の運命だった。
昼は眉根を少し寄せて、拳を握った。
「…陽羽、援護を頼む」
「うん!」
幸雄が刀を構えて駆け出す。
昼が突き出した槍をかわし、刀を振り下ろす。しかし昼は刀を避け、距離をとった。
その瞬間、陽羽が攻撃魔法の魔石を投げつける。
「甘いっ!」
槍を使って薙ぎ払うと、小さな爆発が起こる。砂煙が舞い上がり、腕で目を庇いながら昼の姿を探す。
「陽羽!」
幸雄の声にハッとして咄嗟に防御魔法を発動させる。キィンッ、と弾かれるような音が響く。
目の前には昼の姿があり、少し反応が遅ければ貫かれていたかもしれない。
「…昼ちゃん…!」
薄く白い壁越しに昼と視線が交わる。昼の目は魔物特有の鋭く光る目をしている。気を抜けば力が抜けそうな、そんな目だ。
しかし、昼の目にはどこか辛そうな、苦しみを噛み締めるような、そんな複雑な色が映っていた。
「……っ、死ねぇっ!!」
「!」
悲鳴にも近い声と共に、昼は槍を大きく振りかぶる。陽羽はどうしてかそれを避ける気にはなれなかった。
グシャッ、と肉が裂け血が飛び散る。昼の胸から夥しい量の血が溢れ出し、地面を赤く染めていく。
幸雄の刀に貫かれて、昼は槍を仕方なく手放した。その場に仰向けになって倒れると、苦しむ様子も見せずに呟いた。
「…あーあ…私…死ぬのか」
その表情は、怒りに満ちていた。しかしどことなく、晴れやかなものを感じられた。
「昼ちゃん…」
「…本名は、タークというそうだな」
幸雄が確認するように聞くと、昼はゆっくりと頷いた。
「アンタの魔力奪って…魔界で上位に立とうと思ったのに…」
息をするのも苦しくなってきたのか。か細くなった声で昼は吐き捨てた。
「………昼ちゃん」
目を閉じかけた昼に陽羽は歩み寄った。
「陽羽…!」
幸雄が腕を掴み引き止めるが、陽羽の目を見るなりその手を離してしまった。倒れている昼に
「昼ちゃん…。────」
幸雄に聞こえないように、昼だけに聞こえるように、そっと耳打ちする。
──自覚したよ。私、長月君の事好きになっちゃった…。
昼は陽羽に何かをするでも、言うでもなく、ただ満足そうに頷いた。それ以上昼が動くことは無く、やがて昼の姿が消え、黄緑色の魔石が二つ落ちていた。
陽羽はしばらくの間、二つの魔石を見つめていた。
「……帰ろう、陽羽」
そっと肩に幸雄の手がのせられる。ゆっくりと頷いて、二人は帰路についたのだった。
驚く程の静寂が耳につく。二人は屋敷につくまでの間、一言も言葉を発する事はなかった。




