第66話
「何処に行きたい?」
幸雄に聞かれ、しばらく頭を悩ませる。
実を言えば特に行きたい所はないのだ。幸雄と共に回れればどこでも楽しめるはずだ。
「先にお昼、食べちゃおうか」
「構わない。何にしようか…」
ランチコーナーへ移動し、店を一軒ずつ見て回る。ランチを担当するのは主に三年生で、宵や美里、侑も担当しているとの事。
順番に教室内の様子を覗きつつ歩いていると、三年三組の所で足を止めた。
「あ、オムライスだって」
「ここにするか?」
「うん…!」
三年三組は宵のクラスだ。中に入ると、時間帯がまだ早いためか、結構空いていた。
店の奥からクリーム色のふわふわの髪をした生徒がパタパタとやって来る。
「いらっしゃいませ…って長月君と陽羽ちゃん!」
「宵さん!」
「来てくれたの?ありがとう」
案内された席に座り、メニューを開く。品数が多い、という訳ではないのだが、それでもやはり迷ってしまう。
他の人が何を食べているのか、辺りを見渡そうと視線を隣に移すと、スマホを操作している竜の姿があった。
「や、弥生さん…!?」
「あ?あぁ…アンタ等か。デート?」
「違う」
竜は運ばれてきたオムライスを食べながら、陽羽を見る。
眠そうなたれ目をじっとりと細め、一笑した。
嘲笑でもなければ朗笑でもない。ただただ可笑しそうに、小さく笑ったのだ。
何故笑われたのか分からないが、少しだけ胸が痛む。その後竜は何も言わず、ひたすらにオムライスを食べていた。
すると、メモを持った宵がやって来た。
「注文決まった?」
「あ、えっと…ケチャップで」
「デミグラスで」
「はいはーい。少々お待ちくださーい」
宵は奥の方へメニューを持って去って行く。
「楽しみだね…」
「あぁ」
「………」
竜は椅子を陽羽の方へ寄せ、こっそり耳打ちした。
「あんた長月に惚れてるでしょ」
「!?」
今まであまり関わりがなかった竜にそう言われ、一気に顔を赤くさせる。それを見た竜はふっ、と口の端を上げた。
「長月は鈍いなんてレベルじゃねぇしな。感情の件を差し引いても天然な方だ」
「うっ…」
「…だが、あいつもお前に惚れてるかもなぁ?」
ニヤニヤとしながら紡がれる言葉に、陽羽は一瞬幸雄の方を見た。視線に気付いた幸雄に見つめ返され、恥ずかしさのあまり顔を逸らした。
「くくっ、あんた等面白すぎ…。期待しときなよ」
「き、期待って…?」
陽羽が聞き返すと、竜は椅子を戻し、今度は立ち上がって幸雄の横へ移動して何かを耳打ちする。
(ま、まさか言ったりしないよね…?)
若干の焦りがあったものの、幸雄の表情は変わらないままで、一体何の話をしているのか分からなかった。
「………本当なのか?」
「間違いないだとよ」
竜は幸雄の肩にポンっと手を置いて、席に戻って食事を再開した。すると陽羽達の席に注文したオムライスが運ばれてきた。
「お待たせしましたー」
「あ、どうも…」
「ありがとう」
出されたオムライスを食べるものの、竜が幸雄に言っていた内容が気になり、食べたオムライスはあまり味がしなかった。




