第63話
黒板に大きく『文化祭の準備と役割分担』と書かれ、教壇に昼と悠月が立っている。
来週に迫った月下高校文化祭。
陽羽達のクラス、二年一組はドリンク専門店とくじで決められており、メニューを決める作業等を決めなくてはならない。
コーラ、紅茶、ジュース、とあげられたメニューを昼は黒板に書いていき、大方決まったところでシフトの構成に移る。
シフトを決めるのはくじ引きで運試しだったので、当日、幸雄と回る約束はしていたものの、ここで一緒の時間帯に当たらなければ意味がない。
ドキドキとしながらくじを引く。結果は十時から十一時。幸雄が一時から二時だった。
「ちょっとズレちゃったね…」
「まぁ仕方ないさ…」
二人して残念そうに肩を落としていると、その様子を見ていた悠月が、陽羽の手元の紙と自身の紙を無理矢理交換させ、飄々と紙に書いてしまった。
「ま、町田君…!?」
「俺十時から十一時ね。で、師走さんと長月が一時から二時だって」
「えっ!?」
慌てて悠月と交換した紙を見てみると、一時から二時となっていた。どうやら見越して交換してくれたらしい。
「町田君…!ありがとう…」
「いいよいいよ。師走さん、ここでの文化祭初めてなんだからさ。長月に色々案内してもらって」
「…うん…!」
悠月に感謝しつつ、幸雄と顔を見合わせて微笑んだ。
「あ、でも…申し訳ないから、何かお手伝いさせて」
「マジ?じゃあね……買い出し頼めるかな?紙コップとストロー」
「勿論」
悠月から買う物リストを受け取る。
放課後。幸雄と見廻りを終えた後、ホームセンターへ向かう。
「時間、一緒になってよかったね…。町田君に感謝しないと…」
「そうだな」
ホームセンターの入口に着くと、昼とばったりと会った。家の電球が切れたらしく、買いに来たそう。
「二人は買い出しかぁ」
「うん」
紙コップ(蓋付き)、ストロー、電球、と順番に店内を回り、それぞれ会計を済ませる。
昼の提案で近くにある人気のアイス屋に寄り道する事になった。
もう日も沈みかけており、スーツを着た会社員らしき姿や、他の学校の制服姿の人々が多くなった。俗に言う帰宅ラッシュだろう。
学校帰りの学生がそこそこに並ぶアイス屋は、ホームセンターから歩いて五分程の場所にあった。
店員の女性に待っている間に、とメニュー表を渡され、昼が持っているメニュー表を陽羽が覗き込む形で並んでいた。
幸雄は二人の上からメニュー表を覗き込み、即決した。
「私抹茶アイスにしようかな〜。二人は?」
「私は…イチゴチョコ」
「紅茶ラテ」
相変わらずの幸雄の紅茶好きっぷりに、陽羽はふふっ、と頬を緩めた。
店員に注文を頼み、しばらくすると注文したアイスがそれぞれ出された。
「美味しそ〜」
「写真撮ろ〜」
自身の抹茶アイスを写真に収める昼。陽羽はそんな昼を後目にアイスを一口食べる。
ひんやりとしたチョコレートの味に、しゃりしゃりとイチゴのシャーベットが混ぜられている。気温が下がったとはいえ、暑さがまだ残っているのもあり、更に美味しく感じられた。
「美味しい…!」
「…うん。美味いな」
そう言う幸雄の表情を、こっそりと見上げたつもりだった。しかし、幸雄も陽羽の方を向いていて、ばっちりと目が合った。
慌てて目を逸らすと、幸雄が自身の紅茶ラテアイスを一口分掬い、陽羽の口元へ運んだ。
「食べるか?」
「へっ…」
幸雄のアイスが欲しいのだと思われたらしい。
以前にも似たような事があったな、とふと思い出して顔を赤くさせる。込み上げる恥ずかしさを隠しながら、幸雄のアイスを食べた。
ふと、幸雄の表情が変わった。少し戸惑ったように目を瞬かせた。
「………」
「な、長月君も…どうぞ?」
と、陽羽も同様に幸雄の口の前に差し出す。幸雄がそれを食べると、陽羽の中に何ともいえない気持ちが混み上がる。
「……ありがとう」
「こ、こちらこそ…」
写真を撮り終えた昼は、先に食べ始めていた陽羽達に負けない早さでアイスを食べる。
空になったカップをゴミ箱に捨てていると、聞き覚えのある声が陽羽達の後ろから響いた。
「あれ〜?ゆっきーにひわっち?」
振り返るとそこには胸元のあいたワンピースを着用し、ベージュのカーディガンを羽織っている陸が手を振っていた。
「緋月さん…!こんばんは!」
「こんばんは」
陸は挨拶を返しつつ、陽羽の隣にいる昼に視線を止める。
「………」
しばらく見つめた後、陸は昼の髪にそっと触れた。
「ゴミついてるから取ってあげるわね〜」
「あ、ありがとうございます…」
サラッ、と昼の短髪が揺れる。陸はにっこりと笑って陽羽に向き直った。
「学校帰り?」
「はい。文化祭の買い出しに」
「そっか〜。懐かしいなぁ。ま、頑張ってね」
そう言い残すなり、陸はすぐ近くに停めてあった車に乗った。
「…珍しく大人しかったな…」
「え…そう?」
幸雄に言われ、陽羽は陸の言動を思い返してみる。けれども不審な所は何もなく、走り去っていく陸の車を見つめていた。




