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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
62/204

第62話

物心着いた時には、何も無かった。空っぽだった。


周りの子達は皆笑っている。しかし自分は笑っていない。そもそも笑うとは何だ。


しかし、転んだ時には涙が出た。痛み。感覚は生きているらしい。けれど、それ以外は何も無かった。


普通の人には『嬉しい』時に『笑う』。


『痛い』時に『泣く』。という、何かがあるらしい。


頑張って練習して口の端が上げられるようにはなった。けれどもやはり何も無い。


心の中は真っ赤で何も無かった。一度だけ薄くなった事があったけど、常に真っ赤だ。


───俺には何も無い。






「……よし」


机の上に置かれた、綺麗に包装された箱を見て、うんうんと陽羽は満足気に頷いた。箱に赤いリボンを付けて、にっこりと笑った。


本日、九月十八日。幸雄の誕生日である。


先週からつい昨日まで、陽羽は幸雄への誕生日プレゼントをあれやこれやと悩んでいた。


他の皆が何をあげるのか。事前にリサーチして結果、ハンカチをプレゼントする事にしたのだ。


ハンカチといってもただ市販で購入したのではない。『幸雄』と刺繍を入れたのだ。赤、青、黒のチェック柄ハンカチ、三枚セットである。


(喜んでくれる…かな)


不安混じりの期待を抱えて、箱を両手で持った。幸雄を探して、とりあえず初めに居間へ向かう。運良くそこには幸雄がいた。隣に美里と侑もいる。


「長月君」


「あ、陽羽」


幸雄の手元を見ると、美里達に貰ったらしい。ラッピングされた袋を持っていた。美里と侑は顔を見合わせて、手を振った。


「じゃ、美里達はこれで」


「じゃね〜」




足早に去って行った二人を見送りつつ、陽羽は顔を強ばらせた。


「あ、あのね…えっと…」


咄嗟に箱を後ろに隠したので、幸雄からは何も見えていない。首を傾げながら陽羽の言葉を待った。


「その…お、お誕生日、おめでとう…」


すっ、と箱を差し出す。幸雄は少しだけ頬を緩めて箱を受け取った。


「ありがとう。開けてもいいか?」


「こ、ここで…!?」


自分がいる前で見られるのは少し恥ずかしい。しかし、期待の眼差しを向けられては断れない。陽羽はゆっくりと頷いて、視線を幸雄の手元に向けた。


リボンを丁寧に解き、箱が破れないようにそっと中を見る。


「……ハンカチか?」


「う、うん…皆と被らないようにって…」


「…あ、名前…」


一番上に入れられていた赤いハンカチを手に取って、『幸雄』と刺繍が施された所をまじまじと見つめる。


「あ…い、いらなかったら…捨ててくれていいから…!」


恥ずかしさが相まって、つい早口に言ってしまう。幸雄は静かに首を振った。


「陽羽から貰ったものは何でも嬉しい。大切に使わせてもらう」


「!…あ、…うん…。…良かった…」


ほっ、と安堵のため息をつく。その柔らかい表情に幸雄はそっと触れた。柔らかい頬を優しく撫でる。


「…ん……?」


幸雄はプレゼントの袋と箱を机に置いて、陽羽の手を取った。


「?」


ぎゅ、と陽羽の手を包み込むかのように握り、幸雄は目を閉じる。


(温かい…。なんだか…落ち着くな…)







───こうして手を取っている時も。抱きしめている時も。傍にいるだけで、触れるだけで、何かが込み上げてくる。



「…空っぽじゃない…」


「え?」


不意に手を引かれた。ぽすん、と幸雄の身体に包み込まれる。顔に熱が集まり、心臓が早鐘を打つ。


「な、長月君っ…!」


「少しだけ…このまま…」





(ずっと…こうしていたい…)


じんわりと、幸雄の胸に熱がこもっていく。今となっては、少し。ほんの少しだけ。『嬉しい』から『笑う』というのが分かる気がする。


陽羽に見えないように、抱きしめる腕に力を込めて、いつもよりも自然に笑みを浮かべたのだった。

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