第6話
黙り込んだ陽羽を見て幸雄は息を吐いた。
「すぐには決められないだろうから……期間を儲けよう」
「……期間…」
幸雄は右手で三、と指を立てた。
「三日間。三日間だけ、無償で俺の屋敷においてやる。だがそれ以降は…お前の返答次第だ」
「…分かりました」
とりあえず今は物事を整理したい。
たとえこの先一人で生きていくとしても、まずは時間が必要だ。
しっかりと頷いて幸雄を見つめる。じゃあ、と幸雄は立ち上がった。
「着いてこい。案内しよう」
幸雄の後を着いて行き、一件の大きな屋敷の前までやって来る。
ドラマや映画でしか見た事がないような、大きな大きな屋敷。中世ヨーロッパのゴシックデザインに似た屋敷の、黒い鉄柵の門を幸雄が開け、恐る恐る足を踏み入れる。
屋敷の入口に続く石畳以外は芝生に囲まれていて、常緑樹や紫陽花等、手入れの行き届いた広い庭に感嘆の声を漏らす。
道中、隊員達も暮らしているから大きな屋敷、とは聞いていたが、ここまでとは思っていなかった。
幸雄の後ろできょろきょろしながら歩く。どこか懐かしいような感覚を覚えていると、立ち止まった幸雄の広い背にぶつかってしまった。
「わ、すみません…!」
「いや。ここで待っていてくれないか?話をつけてくる」
「は、はい…」
陽羽が頷くなり幸雄は駆け足で屋敷の中へ入って行った。
陽羽の身長の倍程もある扉を見た後、横に飾られている花に目を向けた。
「わぁ…素敵…」
赤、黄、白……様々な色の薔薇が飾られていた。沢山の色があるにも関わらず、しっかりと調和が取れている。
少しだけ顔を近付けると、心を落ち着かせてくれるような香りが鼻を掠めた。
薔薇を眺めていると、玄関の扉が開かれ中から幸雄が手招きをした。
「許可を貰えた。部屋へ案内しよう」
「!ありがとうございます!」
さっ、と頭を下げる。
広い玄関ホールの階段を上り、赤い絨毯が敷かれている廊下を歩く。玄関ホールの中央の天井を見ると、キラキラと輝く大きなシャンデリアがあった。
更に、幸雄に連れられ案内された部屋は、やはりホテルの一室のようにお洒落な内装だった。
ベッド、ドレッサー、小さな机と椅子、とそれこそ必要な物しか置かれていなかったが、落ち着く空間だった。
「凄い…広くてお洒落…」
「こっちは使用人用だから狭い方だ。必要な物があったら遠慮なく言ってくれ」
「いえ、大丈夫です…ありがとうございます」
幸雄が出ていった後、陽羽はベッドに倒れるようにして寝っ転がった。ふかふかのベッドに身を委ねると、身体が沈んでいくのが分かる。
玄関ホールにあった物よりかは何倍も小さいが、天井からぶら下がっている、蝋燭を象ったシャンデリアを見つめながらため息をついた。
「ふぅ…ちゃんと考えないと…」
ぎゅっ、と拳を握り小さな声で呟いた。
「…お父さん…お母さん…」
亡き両親を呼び、目を閉じた。




