第55話
カラカラ、と音を立てて鎌を引きずり、ナハトは一階の廊下を歩く。
「魔力は…こっちからか…。出口の反対側だな」
一度出口から離れてやり過ごす気か、と頭の片隅で思いながら、ニタリ、と笑う。
陽羽の魔力を追い、気配のする方へ向かう。一番奥の部屋の片隅にロッカーが置かれている。
(この中から気配がするな…)
ロッカーに手をかけ、笑みを深めた。
この中にいる彼女は今どんな気持ちなのだろう。どんな顔をしているのだろう。
恐怖で震えているか。泣いているか。絶望しているか。
想像するだけで気分が高揚する。彼女は階段から落ちても必死に逃げようとしていた。
分かりやすい程の、その生への執着を捻り潰すのは、どれ程気持ちがいいか。ナハトは知っていた。
何度も味わいたいと思うからこそ、わざわざ魔人を選んで、あえて近くに人が多くいる廃墟を選んだ。
少しでもいい。生きる希望をチラつかせてやれば、あとは勝手に生き延びようと動いてくれるから。
それを潰した時にこそ、ナハトにとっての快楽が得られる。
(ゲームはもう終わりだぜ…)
勢いよく開く。しかし、そこには陽羽の姿はなかった。
が、代わりにそこには黒く輝く魔石が落ちていた。
「………あ?」
しばらくして、ナハトの呆けた声が部屋の中にこだました。
「………あのアマ…」
黒い魔石を踏み潰し、ナハトはロッカーを殴りつけた。ガンッ、と大きな音を立てて、ロッカーが凹んでしまった。
そして息を吐き出しながら目を細めた。ギリッと歯を軋ませ、鎌の柄を握りしめた。
「嬲り殺すか犯し殺すか…まぁいい、なんでもいい……ぶっ殺してやる…!!!」
自身の楽しみを奪った陽羽への殺意がとめどなく渦巻いていく。靴音を響かせながら、まっすぐに出口へと向かった。
(そろそろ、かな…)
ナハトの足音が遠くなってから十秒後。陽羽は部屋を出て出口へ向かって走り出した。
陽羽が使用した魔石は『代理』。
陽羽の魔力が特殊で見つかったのなら、魔石に魔力を限界まで注ぎ込み、別の方へ移動させる。
結果成功はしたが自身の魔力は底を尽き、歩くだけで精一杯であった。
(練習中だったけど…何とかなったかな…?)
階段を降りてすぐ、出口の大きな扉が目の前に現れる。扉を開けて、建物の外へ出た。
「はぁ…はぁ…っ」
このまま街まで出ようと一歩踏み出した時だった。首を掴まれ、その場に押し倒される。
「きゃっ!…あっ」
「このアマ…よくも…オレを騙したな」
「わ、私は建物から出ました…!約束し──」
「ンなこと知らねぇよ」
ぐぐっ、手に力を込められ、呼吸が出来なくなる。懸命に空気を取り込もうとするが、息が上がっているのもあり、上手く呼吸出来ない。
気が遠のくとパッと手を離される。
「う、ぐっ…げほっ…はぁ、…はぁ…」
「簡単に殺してやるかよ」
ナイフをくるくると回し、頬に、胸にと切りつけていく。
「ぃ、や…っ…やめてっ!」
「黙れ」
再び首を絞められる。先程よりも強い力で呼吸をせき止められる。
次第に呼吸の仕方が分からなくなり、視界がぼやけていった。




