第54話
「じゃあゲームをしようか」
ナハトは立ち上がって鎌を背負い、陽羽の後ろに回った。
「ルールは簡単。オレから逃げてこの建物を出るだけ。鬼ごっこだねいわゆる」
陽羽の手にかけられていた手錠を外し、陽羽を立たせた。
「ここから出たらオレはそれ以上追いかけない。約束するよ?街に行って助けを求めたらいい…」
つぅ、と陽羽の手の甲をなぞる。背筋に冷たいものが走り、息を飲んだ。
「一分後に追いかけるね。じゃあ…始め」
ナハトが手を離す。陽羽は訳が分からなかったが、急いで部屋を出た。
明かりのついていない廊下を走り、階段を一気に駆け下りる。三階、とかかれた廊下まで走ってきた時だった。
「見ぃつけた」
「っ!」
捕まると思ったが違った。相手は魔物だ。腕に焼けるような痛みが走る。
「えっ…」
「言い忘れてたけど…ギリギリまで捕まえる気ないよ?じぃーっくりいたぶってから…殺してあげるね?」
血がついたナイフを舐めながらにたりと笑う。恐る恐る痛みのある左腕を見ると、シャツが赤く染っていた。
顔からさっと血の気が引き、身体が震える。
「逃げないの?」
「ひっ…」
左腕を抑えて、慌てて走り出した。ナハトがナイフを投げると、その内の一本が太ももに掠る。
「いっ…!」
「止まったら捕まるよ〜?早く逃げないと…ね?」
ナハトの靴音がすぐ後ろから聞こえてくる。荒くなる呼吸を抑えて、階段を下りる。その度に太ももに痛みが走り、顔を歪めた。
そして階段を降りている時だった。ナハトが投げたナイフが足首を掠めた。その拍子に体勢を崩し、階段から転げ落ちてしまう。
「きゃぁああっ…!!?」
「おっ」
幸い、落ちたのは階段の真ん中辺りからだったため、打ち身で済んだ。それでも身体中が痛んで、中々立ち上がる事が出来なかった。
「だいじょーぶぅ?」
ナハトが近付く。咄嗟に煙の出る魔石を発動させ、煙で姿が隠れた隙に起き上がり、階段を降りようとした。
───が。
「よっ」
「っ!!」
後ろにいたはずのナハトが目の前に現れる。驚いて尻もちをつくと、ナハトがナイフをシュッ、と振った。胸と腹部に浅い傷がいくつか付けられる。
「ぃっ…いた…!」
「ハハッ、いい声で鳴くじゃん。君の魔力は特殊だから…すぐに居場所が分かるよ。でも…その傷じゃあ…もう楽しめないかな…?」
小窓から月明かりが差し込み、ナイフがきらりと光る。ポケットから魔石を取り出し、ナハト目掛けて投げつける。
「おっと」
自身の前に防御魔法を発動させ、投げた魔石を爆発させる。続いてまた別の魔石を床に叩きつけると、真っ白な煙が辺りを包み込む。
足を奮い立たせ、階段を一気に駆け下りた。
「ふぅん…面白い」
鎌を振るい、煙を払うとナハトは口の端を釣り上げた。
一階に続く階段がある近くの部屋に身を隠す。震える身体を抱きしめるように、腕を組んだ。
切られた所が熱を持って、血が伝って気持ちが悪い。自然と息が荒くなり、頭が痛くなってくる。
「はぁ…はっ、…長月君…」
自然と口から漏れる言葉に、返ってくる返事はない。陽羽はポケットから黒色の魔石を取り出す。
(…出来るか分からないけど…やってみないと…!)
黒い魔石にありったけの魔力を込め、廊下に転がした。




