第53話
屋敷の廊下を走り、幸雄は救護室に駆け込む。各隊隊長も一つのベッドの周りに集まっている。
ベッドには凛子が涙を流しながら、座っていた。幸雄に気が付いた凛子は、寄せていた眉根を更に寄せた。
「な、長月…ごめん…ごめんなさい…!!」
「葉月ちゃん、とりあえず横になって。傷が開いちゃう…」
空に諭され、渋々横になる。凛子の隣に幸雄は歩み寄った。
「宮下と陽羽は」
「宮下先輩は気絶してるっス。師走先輩は行方不明っス」
幸雄の問いに答えたのは蓮だった。
倒れている凛子と昼を見つけたのは蓮だった。昼は気絶していたが、凛子は腹部を刃物で刺されたらしく、大量に出血していたとの事。
それでも異人のため、止血を済ませるとこうして起き上がる事も出来た。
「責めないであげて欲しいっス。長月先輩」
「分かってる…」
凛子は泣きながら謝罪を続ける。その背を洋子がさする。美里もぽんぽん、と凛子の頭を撫でた。
「でも、陽羽ちゃんの起点が利いたおかげだよ。あの女の子が無事だったの」
空は励ますように言うが、幸雄の顔は晴れないまま、ぎゅっときつく拳を握りしめる。
よし、と空が手を叩き空気を引き締める。
「長月君、睦月君、如月ちゃん。君達三人がメインだ。陽羽ちゃんを助けるんだ」
「御意!!」
「他の皆もだ。見回りをしつつ、各隊で情報を共有して。いいね?」
「はい!」
「葉月ちゃんは僕と連絡を待とう」
「…っ、はい…」
(陽羽……)
自身の手を見下ろし、幸雄は目を閉じた。幸雄の肩に佳乃がそっと手を置く。
「落ち着きなさい。貴方が焦ってちゃ、周りも焦るわよ」
「…文月…」
「陽羽ちゃんは強い子よ。皆が思ってるよりもね」
パチン、とウインクしてみせる。幸雄はすぅ、と深呼吸して頷いた。
「あぁ。ありがとう」
「えぇ。一刻も早くね」
頷き合って陽羽を探すべく、皆屋敷を出たのだった。
(痛い…)
そう感じてうっすらと目を開ける。身体を動かそうとすると、手首に違和感を感じる。後ろで何かに繋がれているらしく、身動きが取れなかった。
「ここは…」
何かの部屋らしい。外からがやがやと聞こえる辺り、街の傍にある建物にいるらしい。
辺りを見渡していると、カラカラ、と何かを引きずるような金属音が響く。扉から一人の男性が入ってくる。
赤色の髪に額の左側から長い角が生えている。特徴的な尖った耳には沢山のピアスが付けられていた。
男性の手には大きな鎌が握られており、引きずっていたのはそれだと分かる。
鋭い目を陽羽に向け、にたりと笑う。
「目、覚めた?」
「…っ…」
背筋に冷たいものが流れる。男性は陽羽に歩み寄り、頬を片手で挟んだ。
「うんうん。オレ好みの美人さんだね」
「……貴方は…」
「オレはナハト。よろしくね」
「…ニュースになってる…連続無差別殺人の…」
「そう。知っててくれて嬉しいなぁ…?」
笑みを深めながら、陽羽の制服のボタンを一つ、また一つ、と外していく。
羞恥よりも恐怖が訪れ、声を震わせた。
「な、何を…!?」
「…楽しいコト?」
シャツのボタンを半分程外し、露わになった鎖骨に舌を這わす。声にならない悲鳴が口から漏れる。
「アハッ。いい反応」
逃れようと身体を動かすが、ガシャガシャ、と音が響くだけであった。
身体が自然と震え、呼吸も荒くなっていく。
それを見たナハトはニッ、と口の端を上げた。




