第5話
道中にあったベンチに座り、陽羽はやっと口を開いた。
「…どうしよう…」
縋るでもなく、ただ今の心情を呟いただけであった。幸雄に何かを求めていた訳ではなかったが彼はふと提案したのだった。
「一つ、提案があるんだが…師走、俺達の屋敷で暮らさないか?」
「……え?」
一瞬、理解が追いつかなかった。そんな陽羽に気付かず、幸雄は話を続ける。
「まずは先日の件から話をしよう」
幸雄の言う先日の件、とはあの人間とは違う女性や諸々の事だろう。ぼんやりしていた頭を切り替える。
「この世には二つの世界がある。一つは俺達がいるこの世界。もう一つは…人間が魔界とも呼ぶ世界だ。魔界の住民を魔物といって、見ての通り人間とは違う存在だ」
先日の女性の姿を思い出す。過ぎた事だが、あの冷たく鋭い瞳を思い出すと寒気がする。思わず手をきゅっ、と握った。
「本来、魔物は害のない存在だ。ましてやこちらの世界に来る事自体、禁忌とされているからな。だが、まれにああいった流れ者が現れる。俺はそいつ等を殲滅するための組織、魔物殲滅隊なんだ」
「………」
突出した内容に返事が出来なかった。
そんなフィクションのような存在があったなんて。現実味のない話について行くので精一杯だったが、とりあえず頷いて、話を聞いている事は伝える。
「そして…本来魔物は普通の人間には見えない」
「え?」
幸雄はそう言うが、陽羽にはしっかりと見えていた。
(誰でも見える訳じゃないって事?幽霊みたいに霊感があるとかないとかの話?)
「お前は…見えていると言ったな」
「ふ、普通に見えました…」
「そういった者は生まれつき魔力を持っているんだ。実際何人かいるしな。そこでだ」
幸雄はずい、と顔を近付けた。整った顔が目の前に現れ、一瞬どきりとする。
「師走、俺の添人にならないか?」
「そ、そいびと…?」
少し身体を離しつつ、聞き慣れない単語に首を傾げる。
「えっと…俺達、魔物を倒すための者達を異人という。生まれ持って魔力を持った者を魔人。異人に魔力を譲渡する魔人を添人」
つまり、幸雄に魔力を渡す存在となって欲しい。そういう意味合いであるが、それに何の意味があるのかがいまいち理解出来なかった。
陽羽が口を開こうとすると、先に幸雄が続けた。
「添人になれば、住処の保証は出来る。学校にも通わせてくれるだろう」
「!」
しかし、と幸雄は顔に影を落とした。
「添人になるという事は…先日のような戦闘に巻き込まれる可能性が高い。勿論、俺がお前を守るが命の安全は保証出来ない」
「………」
条件を聞いていれば、添人になるという選択を取るのがいいのかもしれない。
このまま幸雄の提案を跳ね除け、一人で生活していくのも可能ではあるだろう。しかしそれでは近いうちに終わりが来てしまう。
そして逆も然りだ。たとえ住む所を得ても、戦闘で命を落としては元も子もない。下手をすれば前者よりも死期を早めるやもしれない。
陽羽は俯いて生唾を飲み込んだ。




