第48話
着替え終わった幸雄と悠月は火を起こしていた。
おーい、と凛子の声が聞こえ、幸雄と悠月は顔を上げる。
「お待たせ!手伝う事ある?」
「今火起こしたとこ〜。肉と野菜出しといて」
長月、と昼は陽羽の腕を引いて幸雄の前に立たせた。
「わっ、ひ、昼ちゃん…」
「………」
幸雄は無言でじっと陽羽を見つめる。しばらくして自身の上着を脱ぎ、陽羽に着せた。
「き、着ておけ…」
「う、うん…?」
首を傾げつつ、幸雄のパーカーに袖を通す。当然の如く、サイズは大きくて手が見えなくなった。腕捲りして、作業に取り掛かった。
作業が終わりに差し掛かった頃、昼がそうだ、と提案した。
「ねぇ、時間勿体ないからさ、グループに分けない?」
「?どういう事だ」
「時間的に今はお昼前でしょ?遊ぶグループとここで荷物番するグループに分けるの。お昼食べたら交代、って感じで」
「ふむ…」
「いいね、そうしよう…」
先に海に向かったのは陽羽と幸雄。残りの三人に荷物等を任せ、砂浜を並んで歩く。
「海…綺麗ね…」
「そう…だな」
しかし、砂浜に来た辺りから幸雄の顔は浮かばなかった。いつもより強ばった表情をしていた。
「…どうかした?」
陽羽が顔を覗き込むと、幸雄はさっと視線を逸らした。
「な、何でもない…」
「…そう…?…海、入らない?」
幸雄は少し考えた後、はぁ、と息をついた。
「陽羽…大事な話がある…」
緊迫した表情でそう言った。自然と陽羽も身が強ばり、真っ直ぐに幸雄を見上げた。
「な、何…?」
「俺…」
一度深呼吸して、幸雄は言った。
「俺は…泳げない…」
「………」
陽羽はしばらくしてからふふっ、と小さく笑った。
「わ、笑わないでくれ…」
「びっくりした…。真剣な顔してるから…魔物がいるのかと思っちゃった…」
「そ、それはすまん…」
「…大丈夫だよ。私もそんなに泳げないから。浅い所で遊びましょう?」
「…あ、あぁ…助かる」
並んで海に足をつけてみる。気温自体は高くて汗が滲む程なのに、海の水は冷たかった。陽羽の膝下位までの深さの所まで移動する。
「ちょっと冷たいね…」
「そうだな…」
「………」
陽羽は海水を両手で掬いあげた。そして、
「そりゃっ…!」
幸雄に掛けた。幸雄は驚いて身を引いたが、すぐに海水を掬って陽羽に掛けた。
「わっ!…ふふっ」
「ふっ…ははっ」
おかしそうに幸雄は笑った。
(は、初めて見た…)
いつもの口だけを動かすだけじゃない。心から楽しそうに笑っていた。無邪気な少年のような笑顔に心を奪われていると、一際高い波が訪れた。
ぼんやりしていたのもあり、陽羽は体制を崩してしまう。
「きゃっ」
「っ!」
幸雄は陽羽の腕を掴んで引き寄せた。幸雄の胸板に顔が当たり、陽羽はきゅ、と目を閉じた。
鍛えられた身体に支えられ、転ぶ事はなかった。顔に一気に集まる熱。陽羽の高鳴る鼓動は、自然と幸雄にも伝わっていた。
波が収まり、陽羽は逃げるようにして幸雄から離れた。
「ご、ごめん…ありがとう…!」
「いや…」
幸雄の顔をもう一度見てみる。すでに先程の笑顔はそこにはなく、いつもの無表情に戻っていた。
少しだけ残念に思いながら、陽羽は微笑んだ。




