第45話
陽羽と宵は普段通り、地下の訓練場で魔石の扱いの特訓をしていた。
冷房が効いているとはいえ、動いていれば当然発汗する。額に浮かんだ汗を、首にかけていたタオルで拭う。
週に三日の訓練を行い続け、既に十以上の魔石の扱いが出来るようになっていた。
陽羽同様に汗を拭っていた宵が、ぱっと顔を上げた。
「よし…今日はここまでにしておこう」
「ありがとうございます」
「あ、そうだ…今日隊長会議だから、会議室には行かないようにね」
「わ、分かりました…!」
そもそも会議室が何処にあるのか、陽羽には分からなかったが、とりあえず部屋で勉強していようと部屋に戻ったのだった。
屋敷の最奥にある広い一室。
会議室とかかれたプレートが付けられている扉の前に、空は大量の資料を抱えて立っていた。
「おぉ〜い…誰か開けておくれ〜」
「あらぁ〜くぅちゃん!大荷物ね〜」
空のすぐ隣から陸が現れる。
いつもの派手な格好ではなく、黒いスーツに控えめなメイクをしていた。しかし、シャツの胸元は開けられていて、髪をまとめる飾りは大きく輝く石が付けられていた。
「陸ちゃんだ。やっほー」
「やっほっほー」
「珍しいね〜時間前に来るなんて」
会議までまだ二十分以上ある。集合時間内に陸が来た事が珍しい、というのは如何なものかと思うが、空にはそれが当たり前のことだった。
「ひわっちに会いたかったんだけど…いないみたいねん」
「陽羽ちゃんなら宵ちゃんと地下で魔石の特訓中。会議が終わってからなら会えるんじゃない?」
「そっか〜」
「扉開けてくれない?」
「はぁい」
陸は扉を引き、空に入るように促した。会議室には既に各隊の隊長がそれぞれ席に着いていた。
空は一人ずつ資料を配ってから自身も席に着く。しばらくすると扉が開かれ、座っていた全員が立ち上がり頭を下げた。
「全員いるな。珍しく」
重く低い声が会議室の中に響く。
声の主は夜鳥海。魔物殲滅隊の総隊長である。
紫がかった黒髪に鋭い目付き。楕円形の机の一番扉から近い席に座る。
「さて、会議を始めよう。まずは各隊の報告からしてもらおう。一番隊・睦月」
「魔物討伐数三体。異常ありません」
「二番隊・如月」
「魔物討伐数零体。先月と同じく魔物の気配はなしです」
「三番隊・弥生」
「討伐数、二体…。異常なしです」
「四番隊・卯月」
「討伐数六体。増えてるわねぇ…」
「二番隊から人員を増やす。次、五番隊・皐月」
「魔物討伐数・三体。魔物が住み着いてた家が破壊されたっス」
「構わん。六番隊・水無月」
「討伐数四〜異常なし〜」
「ゲームを控えろ。七番隊・文月」
「魔物も出てないし異常もないわ。強いて言うなら野良猫の数が増えたかしら?」
「猫の話はするな虫唾が走る。八番隊・葉月」
「討伐数三体、異常ありません!」
「九番隊・長月」
「討伐数四体、異常なしだ」
「十番隊・神無月」
「発見数もゼロで異常なしだよ」
留まることなく報告をする。
静まり返った会議室に、カチャカチャとゲームボタンを操作する音が鳴り響く。全て聞き終えた海ははぁ、と思いため息をついた。
「月に一回の会議位真面目に出来んのか。特に水無月」
「だってダルいんだもん〜。アカリちゃんルート難しいんだよ?もう三周目なのにハピエン迎えらんないの」
「知らん」
眉根を寄せ、目を細めた海をまぁまぁ、と陸が制する。
「海ももっと気楽に行きましょうよぉ。いつまでも眉根にしわ寄せてないで〜」
「…まぁそれは置いておくとして。空」
「はいは〜い」
空はその場に立ち上がり、資料を掲げた。
「皆手元の資料を見て。共通の任務だ」
任務、という言葉に皆が少しの緊張感を覚える。
依然として侑はゲームを弄っているが、視線は空達の方に向けられていた。
「巷でニュースになってる連続無差別殺人事件。知ってるね?」
「えっと…被害者は若い女性。身体中に無数の切り傷が付けられてるっていう?」
凛子が言うとそう、と空は頷いた。
「それが魔物によるものだと分かったそうだよ。何でも被害者が皆魔力を保有しているとかで…」
「発見次第、即抹殺しろ」
海の有無を言わせない圧を感じながら、各隊長等は頷く。
「了解!!」
「では次だ」
滞りなく会議は進み(侑の事は無視する事にした)、一時間後には終わりを迎えていた。
資料をまとめ、帰ろうとした長月の前に海が立ちはだかった。
「長月。お前にも添人が出来たそうだな」
「は、はい…」
「会わせてくれるな?」
「あ、私もひわっちに会いたーい!」
海の後ろから陸も顔を出す。幸雄は頷いて着いてくるように目配せした。




