第42話
陽羽が視線を向けているのに気がつくと、空は口を開いた。
「長月と春原ちゃんが同じ中学だった、ってのは知ってる?」
「は、はい…聞きました」
「春原ちゃんはね。友達と賭けをしたんだ」
「賭け…?」
陽羽が聞き返すと、空は目を細めた。怒りが宿っているのか、呆れているのか、複雑な色が宿っていて、陽羽には読み取れない。
「長月に告白して、なんて答えるか」
「………」
陽羽は無言で目を見開いた。
「…何…それ…」
長い沈黙の末、呟いた言葉。込み上げた感情は呆れだった。
中学生とはいえ、人を騙し、心を弄ぶ遊びをするなんて。許せないという怒りよりも先に、唖然とした。
「…結果。長月は彼女を振ったんだ」
一瞬、安心感が生まれた気がした。けれどすぐにかき消して、続く言葉に耳を傾ける。
「それで終わるのかと思いきや…違ったんだ。プライドを傷付けられた春原ちゃんは、長月の添人になるとまで言い出したんだ」
虹乃は魔力を持つ家系であると言っていた。魔物殲滅隊の事は元々知っていたのだろう。
「僕達はこの事を水無月に聞いたんだ。だから…僕達は彼女に嘘をついた」
「嘘…?」
「うん。案の定、春原ちゃんは断ったよ。二度と関わらないように言ったんだけど…」
頭をがしがしとかいて、空はため息をついた。陽羽としては嘘の内容が知りたかったが、とても聞く気にはならなかった。
空から聞いてはいけない、というようなただならぬ雰囲気を感じでいたからだ。
「…でも、この事は長月には言わないでね…。キャパオーバーしちゃうだろうし」
人差し指をそっと唇に当てる。陽羽が頷いたのを見てから、空は立ち上がった。
「さて。屋敷に帰る前に買い物に付き合ってくれるかい?」
「勿論です」
近くのスーパーで酒と菓子類を購入し、屋敷へ戻るため、住宅街に入る。
ふと、二人の耳に金属音が響いた。金属音といっても工事のような削ったり叩いたりの音ではない。
何かが弾かれるような、キィンッという鋭い音だ。
「なんだろう」
「!四季さんあれは!」
陽羽の視線の先には虹乃の姿があった。左腕を負傷したのか、水色シャツに赤黒い血が滲み、苦しそうな表情を浮かべている。
虹乃と対峙している女は、白銀の髪をストレートに腰まで伸ばし、毛先を切り揃えている。
身体の至る所に細い鎖が巻かれていて、血のように赤い瞳で虹乃を見下ろしている。
牡丹の花が描かれた美しい扇子で口元を隠し、喉を鳴らして笑う。
「魔物…!」
「助けないと…!!」
走り出す陽羽の腕を思わず空は掴んだ。
「待って!近くに見回りしてる隊員がいるはずだ。それを呼ぼう」
「そんな時間ありませんよ…!春原さんを助けないと」
「君が怪我したらどうする!!」
珍しく声を荒らげ、陽羽の腕を掴む手に力を込めた。
「死んだらどうするんだ!」
「………」
すぐ近くで再び鋭い金属音が聞こえてくる。魔物の攻撃を虹乃が防いでいるのか。はたまた虹乃の攻撃を魔物が防いでいるのか。
空を見上げながら、その音に耳を澄ませていた。
「…でも…そうしている間にも春原さんが…。せめて隊員さんが来るまでの時間稼ぎを」
「やめて!!君はサポート中心だろう。魔物は強いんだよ!死んじゃうかもしれないんだよ!?」
「何もしないよりかはいいと思います!」
空に負けないくらいの声を響かせる。空に強く掴まれていた腕を振り払って、虹乃の元へ向かう。




