第40話
カフェで一息ついた後、屋敷に戻ろうと陽羽と幸雄は並んで歩いていた。
屋敷が見えてきた、その時だった。
「あ、長月君!」
陽羽ではない少女の声がして、幸雄は立ち止まった。きょろきょろと声の主を探し、振り返るとウェーブがかかったピンクのおさげ髪の少女がにこやかに立っていた。
「…春原か」
しばらくしてそう言った。曖昧な記憶から引っ張り出したその名を聞いて、少女…虹乃はにっこりと微笑んだ。
「久しぶりだね。元気?」
「あぁ」
チラッと虹乃は陽羽を一瞥する。くりっとした愛嬌のある瞳だった。
「貴方は?」
「あ、師走陽羽です…初めまして」
「私は春原虹乃。よろしくね」
ニコッと効果音のつきそうな笑顔を浮かべて、陽羽と握手を交わす。陽羽も虹乃に倣って頬を弛めた。
手を離してから、虹乃はしばらく陽羽を見つめて、静かに問うた。
「…長月君の添人?」
"添人"という単語を知っている、という事は少なくとも虹乃は魔人という事になる。
確認するように幸雄に視線を送る。
「大丈夫だ。春原も魔人だからな」
「!そうだったんですね…」
「敬語じゃなくていいよ?やっぱり、私の勘は正しかったんだね」
嬉しそうに虹乃は目を細める。そうだ、と虹乃は陽羽の手を取った。
「明日暇かな?魔人同士、ちょっとお話しない?」
「お話…」
幸雄を見上げると、そっと頷いてくれる。いいという事だろう。
「わ、私でよければ」
「勿論!じゃあ明日の昼前、駅前で」
虹乃と約束を取りつけてから別れ、屋敷へ戻る。屋敷に戻るまでの少しだけの時間で、幸雄に虹乃がどのような少女なのか尋ねた。
とはいえ幸雄の中の虹乃の印象は差程濃いものではなく、"クラスの中心にいる少女"としか言えなかった。
「…じゃあ明日、行ってくるね」
「あぁ。何かあったら連絡してくれ」
陽羽が部屋に戻ったのを確認して、幸雄も自室へ戻ろうと踵を返す。
「…陽羽ちゃん、どこか行くの?」
いつの間にか幸雄の前に立っていた空が、皺のついた白衣のポケットに手を入れながら問うた。
気配もなく現れた空に若干驚きつつ、幸雄は答えた。
「春原と会うらしい」
「春原…!?」
ハッ、と空は目を見開いた。何かを言おうと口を開きかけて、空は眉根を寄せた。
「………そっか…」
絞り出すかのように短く言い、足早にその場を去った。




