第39話
「好きです。私と付き合って?」
中学三年の夏。
蝉が鳴く校舎裏の木の下で、少女は桃色の髪をツインテールに結び、頬を赤らめている。その手元はもじもじとして、手を組んだり握ったりで忙しない。
視線も目の前にいる少年からは逸らされていて、たまにチラッと少年を見つめては目を伏せた。初々しい、少女にとっては初めての告白であった。
「…ごめん」
右目に黒い眼帯を付けた少年は、深く頭を下げて去っていく。
ツインテールの少女ははぁ、と息をついた。その目には光は無く、眉根を寄せてむっとした表情で、その背を睨みつけていた。
七月下旬。
月下高校では終業式が行われ、午前のみの登校であった。
どうせならと陽羽と幸雄は、幸雄行きつけのカフェに足を運ぶ事にした。
カフェに向かう途中、街でも人気のドリンク店から出てきた、白いセーラータイプの制服を着た少女に目がいった。
陽羽が以前通っていた太聖高校の生徒だ。
三人の少女達は片手にカラフルなジュースの入ったカップを持ち、写真を撮っている。
SNSにでも投稿するのだろう。
「…どうかしたか?」
少女達を見ていた陽羽に、幸雄が横から声をかける。
「あ、ううん。あの制服…前に通っていた学校のなの」
(懐かしい…)
白いセーラータイプに、紺色の膝下までのスカート。青いリボンタイが可愛いと評判だったな、と陽羽は頬を緩めた。
「…陽羽はセーラーも似合いそうだな…」
ぼんやりと少女達を見つめながら幸雄は呟く。しかし、街を歩く人々は普段より多く、幸雄の呟きは陽羽の耳には届かなかった。
「…長月君、何か言った?」
「いや…なんでもない。行こう」
少女達の内の一人、ウェーブがかかったピンクの髪をおさげにした少女が、はっと顔を上げた。
「長月…?」
確かに『長月』と聞こえた。中学の時、同じクラスだった少年の苗字だ。
「虹乃どした?」
虹乃、と呼ばれた少女は友人の問いには答えず、その姿を探す。人混みの中に幸雄の姿を見つける。そして幸雄の隣にいた陽羽を見た瞬間、その瞳から光が消えた。
「あ。あれって師走さんじゃない?師走陽羽」
「え、転校した?…ホントだ。隣のイケメン誰だろ〜?」
「美男美女、って感じでお似合いだよね〜。いいな〜」
「………」
友人達の会話に耳を傾けながら、虹乃は持っていた鞄の紐を握りしめる。自然とジュースの入ったカップにも力がこもり、ペコッとプラスチックの凹む音がする。
「………ふぅん…」
目を細めて虹乃はジュースを飲んだ。




