第38話
ゼプテンバールはくすくすと笑って、目を細めた。
「何?そんなにコイツが大事な訳?」
「勿論です…」
陽羽の真っ直ぐな視線に押され、ゼプテンバールは渋々頷いた。
「あーはいはい。分かったよ…。返してやるよ」
あ、とゼプテンバールは一度閉じかけた目を開いた。
「一つだけ忠告」
「な、何ですか…?」
「…なるべく、コイツの傍を離れない事だね」
「………?」
じゃあな、とゼプテンバールは目を閉じる。力が一気に抜けたかのように、幸雄の身体が倒れる。慌てて腕を伸ばし、体を支えてやる。
「!長月君…?」
「ん、んん…陽羽…すまない。どこか怪我とか…」
「私は大丈夫…!まだ熱がある…りんご食べる?」
そう聞くと幸雄はゆっくり頷いた。途中で切るのをやめていたりんごを手に取り、皮をむく。
(…ゼプテンバールさんの言っていた忠告って…なんの事なんだろう…)
食べやすいように小さく切りながらそんな事を考える。
当然、陽羽に魔物を倒す力はないので、幸雄の傍にいた方がいいのは分かる。しかし、ゼプテンバールは『傍にいないと死ぬ』というような言い回しに感じられた。
(分からないのに考えてもか…心には留めておこう)
小さく切ったりんごをフォークに刺し、幸雄の口元に持っていく。
「はい、口開けて?」
「……ん」
食欲はあるらしく、りんご一個分を完食し、幸雄は横になった。
「…何かして欲しい事とかある?」
「……こっち…」
幸雄は少しだけ奥側に移動し、手招きする。意図が読み取れず、陽羽は首を傾げた。
「うん?」
「……隣、いてくれ…」
(い、一緒に寝るって事…!?)
顔が一気に熱くなる。断るべきか悩んでいると幸雄が不安そうに陽羽を見つめる。
(でも…私から言い出した事だし…)
靴を脱いでベッドに上がる。
「い、一緒に寝るの…?」
確認のためそう聞くと、幸雄は頷いた。幸雄と少しだけ距離を開け、横になる。
「陽羽…」
「な、何…?」
「…以前、神無月に…触れていいのは好きな子だけ。って言われたんだが…」
(な、何の話…!?)
戸惑いつつさらに顔を赤くして、続く言葉を待つ。
「俺は…まだ…陽羽の事好きじゃない…大切だが…恋愛の意味の好きじゃない…」
「う、うん…」
「それでも…抱き締めてもいいか…?」
「………うん」
縋るような視線に逆らえず、そう返事をしていた。陽羽を引き寄せ、陽羽の小さな背に腕を回す。安心したように頬を緩めると、静かに寝息が聞こえてきた。
(…寂しい…のかな)
仕方ないか、と肩を竦めて幸雄の顔を見る。
「………」
ぎゅっ、と力を込めて更に引き寄せられる。ドキドキと胸が早鐘を打つ。
(音…聞こえてないかな…?)
心配になりながら目を閉じる。自分も少し眠ろうかと思ったが、緊張して眠気は来なかったのだった。
幸雄が目を覚ましたのは二時間後の事だった。顔色も良くなり、意識もはっきりしているらしかった。
「あ、陽羽…」
「お、おはよう…?」
幸雄の額に触れる。熱も下がっていた。
「もう熱もないね…」
「今日は早く治まった…陽羽のおかげだ。ありがとう」
「わ、私は何も…そうだ。熱が下がったら魔力の譲渡をって四季さんに言われたんだけど…」
「頼む…」
ベッドに寝転がったまま、唇を重ねる。いつもよりも長く、そうしていた。初めて魔力の譲渡で疲労感を感じた。
「すまん、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ…」
幸雄は陽羽を少しの間見つめ、陽羽の頬をそっと撫でる。
「…ありがとう…本当に…。陽羽は優しいな…」
「そんな事…」
「陽羽といると…胸が暖かくて…落ち着くな」
その言葉は陽羽の中に心地よく響いた。幸雄の胸に顔を埋め、赤くなった顔を隠したのだった。




