第37話
熱い。身体が焼けるようだ。
頭がぼんやりとして視界がぐらぐらする。
『今回は随分とまた拒絶するじゃないか』
「………」
頭に直接声が響く。頭が痛い。
『そんなにあの女が大切…?』
「………」
聞きたくもない声が流れる。何も答えずに視線を彷徨わせる。構わず声は響く。
『…なら、ちょっといじめてみるか』
「………何をする気だ。大人しくしてろ…」
『やっと返事したね。大人しくしてるのはお前だよ』
水の中に溺れているような感覚と同時に、全身が焼かれているような熱を帯びる。
(まずい…!!)
熱で頭がぼーっとする。抵抗したものの、水に、熱に、溺れるのだった。
りんごを切っていると、急に幸雄が苦しみ出した。胸を抑えて苦しそうに呼吸をしている。
「!長月君どうしたの!?」
肩を揺らして呼びかけるが、呻吟するだけで陽羽の声は聞こえていないらしい。
「どうしよう…四季さん呼んでっ」
ベッドから離れようとした瞬間、腕を引かれ背中からベッドに倒れ込んでしまう。
「きゃっ…な、何…!?どうしたの…!?」
「……ふぅん」
いつもは黒い眼帯で隠されている右目が開かれる。左目は月明かりのような黄色だったが、右目は鮮やかな赤色だった。
(…綺麗…)
切れ長の目を細めて陽羽を見下ろす。いつもなら見せないような不敵な笑みに、少しだけ胸が高鳴る。
「な、長月、…君…?」
「何?」
幸雄は陽羽の頬にそっとキスをする。
「へっ…?」
「どうした?照れてるのか?」
そのまま陽羽の耳元でくすくすと笑う。
(いつもと様子が違う…どういう事…)
「あの…、ひゃっ…!?」
高熱時特有の熱っぽい舌を陽羽の耳に這わす。吐息も交わってか、くすぐったくて声が上ずってしまう。
「や、やめっ…長月君…!」
幸雄の胸を押すが陽羽の力ではびくともしない。
「へぇいい声で鳴くじゃん。その調子で僕を楽しませてくれよ…」
その言葉を聞いてハッとした。幸雄の一人称は俺だ。僕じゃない。
陽羽は思いっきり力を込めて幸雄を押しのけた。二人の間に少しだけ隙間が生まれ、その瞬間に距離をとった。
「おっと…」
「あ、貴方は誰…!」
幸雄はニヤリと笑って答える。
「僕はゼプテンバール。長月幸雄に埋め込まれた魔力の持ち主だ」
幸雄、もとい幸雄の姿をしたゼプテンバールは、先程まで陽羽が切っていたりんごに手を伸ばす。
「ゼプテンバール、さん…長月君は?」
「眠ってる。お前と話がしたかったんだ」
「私と…?」
ゼプテンバールはりんごを飲み込んでから陽羽に顔を近づけた。咄嗟に身構えるが、ゼプテンバールは特に何かをするでもなく、目を閉じて何かを考えているようだった。
「なるほどねぇ…これはまた懐かしい…」
「?」
「ふむふむ。たしかに納得はいくな…」
「…あの、長月君を返してくれませんか…?」
ぶつぶつと呟くゼプテンバールに、陽羽は思い切ってそう言った。




