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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
32/204

第32話

「………あの?」


「………だ………リアル美少女だぁ!!!」


そう叫ぶなり陽羽に抱き着いた。驚いて一瞬何が起こったのか理解出来ず、呆然としていたが、缶ビールを手に持った幸雄が女性と陽羽を半ば無理矢理引き離した。


「何してるんですか。如月さん…」


「あぁ〜美少女〜!!長月君〜!」


如月と呼ばれた女性が手を伸ばす。


「わ、私は美少女ではないかと…」


「謙遜するなんてますます美少女!!リアルにこんな子が存在するなんてぇ!」


話を聞く様子もなく女性は陽羽の手をとる。


「私、如月洋子きさらぎひろこ!美少女ちゃんは?」


「師走陽羽です…あの」


「陽羽ちゃん!!名前まで可愛いなんて!!生きてて良かったぁ!」


幸雄の手に握られている缶ビールを奪うようにして取り、蓋を開けてそのまま飲みだした。


「それ睦月さんの…」


「構いやしないわよ!美少女祝賀会だーひゃっほー!!」


そう叫んで陽羽に抱きつこうとした洋子を止め、幸雄は陽羽の手を引いて部屋を出た。


「あ…長月君…ありがとう」


「いや…あ」


先程澪に言われた事を思い出して、名残惜しそうに手を離した。


(…手、離したくなかった…。…何故?)


幸雄は今まで陽羽の手を握っていた手を見下ろす。


「…どうかした?」


陽羽が心配そうに幸雄を見上げる。


「あ、何でもない。えっと…如月も悪い奴じゃない。許してやってくれ」


「許すも何も怒ってないよ…ちょっと驚いたけど…」


「…そうか」


「じゃあ、私は部屋に戻って勉強するね…またね」


そう言って去ってしまう。幸雄は再度手を見下ろした。


(…不思議だな…)


幸雄は伊央の酒を取りにもう一度ダイニングに向かうのだった。




幸雄が新しく持ってきた酎ハイを飲んだ伊央は、我に返ったかのように大人しくなった。対して洋子のテンションは高いままだ。


「…はぁ…今日の休みが終わったらまた明日から連勤が始まるんだ…嫌だ怠い無理疲れたヤバい終わりだ…」


「サビ残要求してくる会社なんて辞めちゃいなよ〜」


「サビ残はいいんだ」


「いいんかい」


「休みがないのが嫌なんだよぉぉ…」


はぁ、と項垂れる伊央を後目に、澪はおつまみの袋を開ける。


「俺睦月君の基準が分かんないよ」


「マゾなんでしょ」


「そうかも…やっぱそうなのか…!?」


適当に漏らした侑の言葉を真に受け、伊央は顔を青くした。


「大丈夫大丈夫〜、世の中色んな人いるって。神無月君みたいな変態もいれば、水無月君みたいなオタクもいるんだから」


「変態で悪かったね」


「オタクで悪かったね」


「まぁそういう私は美少女オタクなんだけどぉ?アハハハハ」


酒を煽り、洋子は陽気に笑った。


「…そういえばあの女の子は?新入り?」


伊央は机に置かれているおつまみのチーズに手を伸ばしながら問う。それに応えたのは澪だった。


「長月の添人」


ぶっ、と洋子は飲みかけていた酒を吹き出した。


「汚っ」


「マジでぇ」


洋子が吹き出し零した酒を拭きながら、幸雄は頷いた。


「本当だ」


「嘘ぉん」


「……おめでとう」


伊央はチーズを咥えながら小さく言う。


「…どうも」


はぁ、と洋子は空き缶を机の上に置く。酔いが回ってきたのか、顔が少し赤い。


「私も添人見つけよっかなぁ〜美少女の」


「無理じゃね?」


「水無月君酷い〜」


その時、洋子のスマホからコール音が鳴り響く。


「んぁ…電話…。ちょっと出てくる〜」


洋子が部屋の入口まで移動すると、コール音が消えた。


代わりに酔っているとは思えない、はっきりとした声がしたが、幸雄達は耳を傾けなかった。


ふと、思い出したかのように幸雄が口を開いた。


「なぁ神無月」


「んー?」


「さっき…陽羽の手を掴んだんだが…離したくないと思った」


澪は酒の入った缶を落とした。ついでに言うと侑もゲーム機を落としていた。

澪は零れた酒を拭きながら、うーんと首を捻った。


「それは…うん…」


「…長月君。それは好意」


幸雄の向かいに座る伊央が真顔で言う。


「好意…それは相手の事が好きというやつか?」


「…色々あるよ。でも、陽羽さんが嫌いという事は断じてないと思うよ」


幸雄の隣でゲーム機が壊れていないか確認していた侑も頷いた。


「ま、今の所は…大切って認識しといたら?」


「大切…分かった」


長い前髪の向こうに、侑が微笑むのが見えた。


洋子が帰ってきたので、再び騒がしくなるのは目に見えているが、幸雄は顔を緩めたのだった。


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