第30話
学生隊長の見回りがない火曜日。午前しか授業がなかった一行は、昼食を摂るべく街を歩く。
陽羽、幸雄、昼、凛子、美里、蓮、侑の七人という多めのメンバーで人通りの少ない街をきょろきょろと見渡す。
「何処がいいかな〜…」
「ファミレスとかで済ましちゃう?」
先頭を歩く凛子と昼がスマホを見ながら言う。
「確かに、安いしいいかもね〜。ゲームもゆっくり出来そうだ」
相変わらず歩きながらゲームをする侑は、凛子達の方は見ずに答えた。隣で蓮が危ない、と注意するが聞く耳を持たない。
「でも、私はガッツリ食べたいわね」
「俺もだ」
美里と幸雄が最後尾から少し声を張り上げる。一行は道の端に寄って立ち止まる。ふと、陽羽の鼻に中華店特有のオイルの匂いが掠める。
「あの…ここはどう?」
すぐ隣にある中華店を指さす。料金的にも安めで、がっつり胃にも溜まるだろう。
「いいね〜!学生って感じ!」
「意味分かんねぇっス」
「放課後にラーメンとか最高じゃん!」
行こう、と凛子が店の扉を開ける。テーブル席に座り、メニューを開く。水が運ばれた頃に注文を済ませる。
やがてラーメン、餃子、炒飯と届くが、陽羽の注文した物は中々来なかった。
「冷めるといけないから…先に食べてていいよ」
「ごめんね」
「ううん」
凛子達が食べ始めてすぐ、陽羽の注文した物が届いた。それを見た瞬間、天津飯を食べていた幸雄の手が止まった。何事かと幸雄の向かいに座っていた昼も、それを見ると箸を止めた。
「お待たせしました〜。超激辛ラーメンです!」
「ありがとうございます」
陽羽の前にラーメンが置かれる。スープは麺が見えない程に真っ赤で、匂いだけでも涙が出そうだ。隣に座っている幸雄が、思わず身を離す程だった。
「………え」
「美味しそ〜」
全員が凝視する中、陽羽だけは顔を輝かせて割り箸を割る。
「いただきます」
真っ赤なスープを口に運ぶ。見た目や匂いだけで辛く感じるが、陽羽の表情は変わらず、淡々と食べていた。
「匂いやば…」
「か、辛くないの…?」
凛子の問いに陽羽は涼しげに頷いた。
「美味しいよ」
(そんなに辛くないのかな…?)
「一口ちょーだい!」
「いいよ」
陽羽の激辛ラーメンと凛子の餃子を交換し、凛子は激辛ラーメンのスープを一口飲んでみる。
瞬間、舌に電気が走ったような衝撃が訪れた。咳込みながら慌てて水を口に含み、そのまま一気に飲み干す。
それでも口の中の熱は治まらず、ピッチャーの水を多めに注いでもう一杯飲む。
「かっっっっっら…!!!」
「でしょうね」
美里は呆れたように肩を竦める。凛子はべぇ、と舌を出して激辛ラーメンを見つめた。
陽羽はというと餃子を一つ食べて、美味しい、と微笑んでいる。
「意外だったな〜。陽羽ちゃん、辛い物好きだったんだね」
凛子にナプキンを渡しながら言った。
「た、たまに食べるとね…すっごく美味しく感じられて…」
「だからって辛さにも限度があるでしょ」
もう食べ終わったのか、侑はゲームを取り出し呟いた。
「私には無理だ〜」
料理をそれぞれ戻しながら凛子は苦笑いを浮かべた。
「餃子…ありがとう」
「ううん!こちらこそ!」
その後も陽羽は、凛子を悶絶させた辛さをものともせずに完食した。
食べ終わった後、幸雄も一口スープを飲んでみたが、反応は凛子と同じだった。
帰りの際、幸雄は自販機で水を買い、陽羽の隣を歩きながら飲んでいた。
「だ、大丈夫…?」
「あぁ…驚いた…まだ舌が痛い」
「舌、見せて」
幸雄の手を引いて道の端へ移動する。幸雄は少しだけ膝を曲げ、目を閉じて舌を出す。
「ん〜…ちょっと赤くなってる…」
「辛かったからな…陽羽は凄いな…」
「す、好きなだけだから…凄い事はなにも…」
手を振って否定する。幸雄は目を開けて軽く頬を緩めた。
「俺から見れば凄いさ」
「………」
行こう、と幸雄は陽羽の手を引く。
幸雄の横顔を見つめながら、早まる鼓動を落ち着かせた。




