第29話
陽羽、幸雄、凛子の三人で街の中心にある時計塔に向かう。凛子の彼氏がそこで待っているとの事。凛子も楽しみにしていたのか、終始笑顔だった。
「あ、おーい!」
凛子が手を振ると、眼鏡をかけ、落ち着いた雰囲気の男性が本から視線を外し、小さく手を振り返した。
「紹介するね。私の彼氏の星夜君」
「東間星夜です。初めまして」
星夜はぺこりとお辞儀して、幸雄と陽羽を交互に見つめた。
「長月君と陽羽ちゃん…で合ってるかな?」
「は、はい…」
「いつも凛ちゃんから聞いてるよ。今日はよろしく」
「こ、こちらこそ…よろしくお願いします!」
「よろしく」
星夜は陽羽達の一つ年上らしく、凛子と付き合い始めたのも数ヶ月前だという。
一行は昼食を取るべく、近くのファミレスに入った。
「陽羽ちゃんと長月君は付き合っているの?」
メニューを選んでいると、突然星夜にそう問われ、ハッとして手を振った。
「い、いえ…!そういう関係では…!」
「そう?お似合いだと思うんだけどなぁ…」
チラッと横目で幸雄を見てみる。相変わらず無表情でメニューを見ていた。
「………」
「……ん?」
「な、なんでもない…」
慌てて顔を逸らす。幸雄はそうか、とだけ言って視線を戻した。
「………」
二人のやり取りを、向かいに座っている凛子と星夜がじっと見つめていたのだった。
昼食を食べた後、買い物に行ったり食べ歩きしたりした。基本的に凛子がリードしてくれるので、陽羽は戸惑うこと無く楽しむ事が出来た。
日が傾き始めた頃、凛子が唐突に言った。
「あ、忘れ物しちゃった。陽羽ちゃんと長月…先に帰っててくれない?」
「忘れ物…大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!星夜君、悪いんだけど着いてきてくれない?」
「…いいよ。それじゃあ、陽羽ちゃん、長月君。またね」
「は、はい…!今日はありがとうございました!」
「あぁ、またな」
凛子達は陽羽らに背を向けて去っていった。
「………陽羽、少しだけ待っててくれないか?」
「え、あ…うん…長月君も忘れ物?」
「そんな所だ。すぐ戻る」
違和感を覚えたものの、頷いて大人しく待つ事にした。街灯の下に立って、ぼんやりと空を見上げた。
(せっかく文月さんにセットしてもらったのに…。…褒めて…欲しかったのかな…。可愛いって、言って欲しかった?)
少しだけ虚しい気持ちになる。舞い上がっていただけに、虚無感が大きい。目を閉じてため息を吐く。
その時だった。
「お姉さん一人?」
「ため息ついてどーしたの?暇してるの?」
陽羽より少し上か、男性二人が陽羽に声を掛けてきた。
「ひ、人を待っていて…」
「じゃあ来るまで俺らと遊ぼーよ」
「や、結構です…」
その場を離れようと歩き出すと、腕を掴まれて引き寄せられる。
「きゃっ」
「つれない事言わないでさー」
「お姉さん超美人じゃん」
「は、離してください…!」
振りほどこうとするも、しっかりと掴まれていて叶わない。助けを呼ぼうと息を吸った時だった。
後ろから陽羽は別の誰かに、抱き締められるかのように引き寄せられた。
「っ!」
「何か用か?」
声の主を見上げる。後ろから陽羽を抱き締め、男性二人を睨み付ける。幸雄の姿を見るなり顔をしかめて去っていく。
「チッ、彼氏持ちかよ」
「行こーぜ」
「………」
男性の姿が見えなくなるまで、幸雄は陽羽を抱き締めたまま離さなかった。二人の身体が離れ、陽羽は幸雄に向き直った。
「あ、ありがとう…」
「いや、すぐに来れなくてすまない」
「ううん」
幸雄は少しだけ迷ってから、手に持っていた小さな袋を差し出した。
「?」
「葉月に言われたんだ。陽羽は謙虚だから、礼なら自分で用意した方がいいって。
陽羽の好きな物が分からなくて…いらなかったら捨ててくれて構わない」
「…あ、開けてもいい?」
幸雄が頷いたのをを見て、袋を開ける。袋の中身を手に取り出してみる。それはハートのキラキラしたネックレスだった。
「可愛い…」
「似合うと思って…」
そっと手を伸ばして陽羽の首筋になぞるようにして触れる。
「ん……」
「…今日の陽羽は…いつも以上に綺麗だな…」
小さく呟かれた言葉に、トクンと胸が脈打つ。
言われたかった言葉のはずなのに、いざ言われると恥ずかしさが込み上げてくる。
「あ、えっと…長月君…」
「何だ?」
「これ、付けてくれる?」
恥ずかしさを誤魔化すように、幸雄がくれたネックレスを差し出す。
「分かった」
陽羽の後ろに立ち、ネックレスを付ける。
「ん」
「…ありがとう…大切にするね」
微笑んだ陽羽を見て、幸雄は手を伸ばしかけて下ろした。
「………?」
「…その…お礼…貰っちゃったけど、一ついいかな…?思いついたんだけど…」
「…いいぞ」
陽羽はそっと左手を差し出す。
「て、手を繋いで…帰りたい…」
「…分かった」
ぎゅっ、と手を握る。自身よりも大きな手に包まれ、何とも言えない温かい感情が湧き上がる。
陽羽はその温かさを感じながら、少しだけ手に力を込めた。
「…なんとかなったね」
凛子は物陰から前を歩く陽羽と幸雄を見て、星夜の肩を叩いた。
「うん…」
「?どうしたの?」
星夜は凛子を見つめ、陽羽同様に手を差し出した。
「僕達も…少しだけど手を繋いで歩かない?」
「!」
凛子は顔を輝かせて飛びつくように手を絡めた。
「もっちろん!」
「…ははっ、やった」
星夜と凛子もまたお互いに手に力を込めたのだった。




