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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
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第27話

「うーん…」


首を傾げていると部屋の扉がノックされる。メモを伏せて扉を、開けると凛子が立っていた。


「やっほー!晩ご飯だよー!」


「あ、うん。行くね」


凛子と共にダイニングへ向かう。途中、澪と廊下で合流した。澪を見るなり凛子はあからさまに嫌そうに表情を歪め、陽羽を庇うようにして前に出た。


「何か用?神無月」


「ひっど。別にいいじゃん仲間なんだし」


「どうせ陽羽ちゃんにもいやらしい事しようと企んでるんでしょ」


「あ、バレた?」


「もう!」


澪は凛子を押しのけて、陽羽の頬に手を添えた。驚いて身を引くと、澪は可笑しそうに笑った。


「ははっ、可愛い〜」


「死ねっ!」


澪に回し蹴りを繰り出す凛子だったが、それを軽々と避ける。


「おっと。食事前の運動にしちゃ…ガチ過ぎない?」


「うっさい!陽羽ちゃんに寄るな!!」


「分かったよ…何にもしないよ」


澪は凛子を一瞥してから陽羽に視線を移した。


「………?」


「…何か悩み事?」


澪はズボンのポケットに手を入れて、ニヤリと口の端を上げた。


「………実は…長月君にお礼がしたいんですけど…何をあげればいいのか分からなくて…」


「長月に?」


「へぇ…そんなの、服脱いで好きにして、って言ったら男は大体喜ぶよ?」


「はぃ…!?」


「うわ、最悪」


澪の発言に顔を赤くさせた陽羽は、凛子の服の袖を掴み軽く引っ張った。凛子も陽羽の腕を引いて、澪に背を向けてダイニングに向かった。


「話にならないね。じゃ、お先に」


「後でね〜」


対して澪は笑顔で手を振っていた。


「大丈夫?陽羽ちゃん」


「す、少しびっくりしただけ…大丈夫だよ」


「本っ当にあのセクハラ野郎…」


眉を釣り上げて舌打ちする凛子の気を逸らすため、陽羽は慌てて話題を逸らした。


「り、凛子ちゃんからは案とかないかな…?」


「私?…うーん…彼氏にはお菓子とかあげるけどなぁ…」


「!凛子ちゃんって彼氏いるの…?」


「え、うん。少し前に付き合い始めてね…」


恥ずかしそうに凛子は頬をかいた。


「へぇ…彼氏さんは凛子ちゃんが異人って知ってるの?」


「…うん。やっぱり、ちゃんと言わないとって思ったから…。いつ死ぬかもわからない。彼は魔力を持っていない。それでも、いいって言われたの…」


「…素敵な彼氏さんね…」


「えへへ」


彼氏の事を褒められて、凛子は嬉しそうに笑みを漏らした。


「でもやっぱり、プレゼントは気持ちが一番だと思うよ。それに、長月なら何でも喜んでくれるよ」


「…ありがとう」


夕食を食べながら、ぼんやりと考える。夕食中には思い付かなかったが、食後の紅茶を飲んでいる時に、ハッとした。


大急ぎで舞夜を探す。ダイニングから離れた部屋から出てきた舞夜に、いくつか質問して厨房へ向かった。


「………よし!」




翌朝。昨夜作り、袋に入れたものを抱え、幸雄の部屋に向かう。


(受け取ってくれるかな…)


そして今日は土曜日で、魔力の譲渡をしなければならない日でもある。高まる緊張感を抑え、ノックをする。しかし返事はなかった。


「……長月君?」


声をかけるが返事はない。しばらく悩み、ドアノブに手をかける。


「失礼します…」


良くないとは思いつつ部屋に入る。幸雄の姿は部屋のどこにもなく、シンッと静まり返っていた。


「…うーん…出かけてるのかな…」


部屋を去ろうとすると、部屋の奥から物音がする。


「…長月君?」


音のした方へ向かう。


「ん?その声、陽羽か?」


部屋の奥にある扉が開かれ、幸雄が顔を出した。しかし、その姿を見て陽羽は目を見開いて顔を赤くした。


風呂上がりだったのか、髪は濡れていてズボンは履いていたものの、上半身は何も着ていなかった。当然、いつも付けている眼帯はなかったが、左目は閉じられていたのと、前髪で隠れていたのもあってよく見えなかった。


短く悲鳴をあげて背を向けた。


「ご、ごめんなさい…!すぐ出ていくから…」


「?用事があるんだろう?服着たら行くから、適当に座って待っていてくれ」


そう言う声色は全く動じていない。返事をしてそそくさと戻る。ソファーに座って深く息を吐く。


(びっくりした…男の子って…やっぱり筋肉あるんだ…)


自分とは全く違う、初めて見た男性の身体を思い出して、赤くなっていた顔を更に赤くさせる。

ドキドキと高鳴る胸を落ち着かせ、幸雄が来るのを待った。


やがて幸雄は首にタオルをかけ、髪を濡らしたまま陽羽の隣に座った。


「髪、濡れてるよ…ちゃんと拭かないと」


幸雄の後ろにソファーの背もたれ越しに立って、首にかけられているタオルで幸雄の髪を拭き始める。


「わ、…おい…」


「ふふっ、風邪ひいちゃうよ?」


不服そうにしていたものの、幸雄は大人しく前を向いていた。


「…こんなものかな…乾かす?」


「いや、いい。自然に乾くだろ…ありがとう」


タオルを幸雄の首に戻し、幸雄の隣に座る。そして持ってきていた袋を幸雄に差し出した。


「?それは…?」


「いつもありがとう…。私の事を気にかけてくれて…本当に嬉しいの」


「…それならもういいと…。俺の添人になってくれたんだから…気にする事はないのに」


「そういう訳にはいかないよ。受け取ってくれないかな…」


幸雄は袋をしぶしぶ受け取り、頬を緩めた。


「ありがとう。開けていいか?」


「勿論…」


袋に貼られているシールを丁寧に剥がし、袋を開いてみる。中にはアイスボックスクッキーが入っており、幸雄は感嘆の声を漏らした。


「これは…」


「長月君が喜ぶ物って…分からなくて…色んな人に聞いたの。長月君、お紅茶好きだし…クッキーならと思って」


「…もしかして手作りなのか?」


「う、うん…感謝の気持ちが大事だって…」


「………」


幸雄はクッキーを一つ口に放り込む。


「……うん、美味い」


「!…良かったぁ…」


「紅茶を淹れる。一緒に食べよう」


「ありがとう…手伝うよ」


幸雄が紅茶を淹れている間に、皿にクッキーを盛り付ける。談笑しながら食べ、我ながら上手く出来た、と陽羽は満足げに微笑んだ。


そして食器を片付けて終えた時だった。


「陽羽、魔力の譲渡を…」


「あ、うん…分かったよ」


幸雄に向き直り、きゅっ、と目を閉じる。そして唇が重ねられる。すでに数回はこうしているが、慣れる事は無く頬が熱くなるのが分かる。

ほんのりと紅茶の味がした気がした。


「………ん」


口を離すと幸雄が陽羽の手を握った。


「…俺も何か礼をしたい。何かないか?」


「え…?」


真っ直ぐ見つめる幸雄を見つめ返し、陽羽は目を伏せたのだった。

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