第25話
宵が竜の部屋に訪れていたのと同時刻。
陽羽は澪に呼ばれて、澪の部屋の前に訪れた。扉をノックし、中から澪の返事が来るのを待つ。
「中入っていいよ〜」
「し、失礼します…」
静かに扉を開けると、ソファーに澪と空が座っていた。
「あ、四季さんもいたんですね」
「神無月君と二人っきりじゃね〜」
「どういう意味かな〜それ」
苦笑いを浮かべつつ、内心ほっとして二人の向かい側の椅子に腰掛ける。
「お話とは何ですか…?」
「長月君の感情についてね」
ハッとして陽羽は背筋を伸ばす。神妙な面持ちで空は話し始める。
「前に言ったように、長月君はちょっと特殊でね…感情が無いんだ」
「………」
「けど、一概に無いとは言いきれないんだよ」
空の横から澪が言う。
「アイツ、ややこしい事に欲求はあるんだ。それに…元の性格ゆえか素直さもある」
澪曰く、幸雄には「食べたい」「寝たい」といった欲求はあるそう。しかし、それに伴う「嬉しい」「悲しい」といった感情を理解出来ないという。
「嬉しい」であるならば、自然と頬が緩んだりするものだ。しかし幸雄の場合、頬が緩むのは何故なのかが理解出来ないのだ。
「…難しいですね…」
陽羽はそう言うので精一杯だった。幸雄の気持ちを察してやれない事が、何よりも辛かった。
「でも、思った事すぐ口に出すし、教えてやれば理解もしてくれる」
「じゃあ、既に理解出来ている感情もあるんですか?」
「あぁ」
肯定されて、ほっと息をつく。
「今の所は…驚きと恐怖、嬉しいは確実かな」
「そうなんですね…」
「ちなみに、驚きは初めて魔物と対峙した日。恐怖は海で溺れた時ね」
(それ言っても大丈夫なの…?)
茶化すように言う澪に苦笑いを返していると、空が神妙な面持ちで陽羽を見つめる。
「そこでお願いがあるんだ」
「私に…ですか?」
「そう。添人として…長月君の友人として…彼に色んな感情を教えてあげて」
「…私に…出来るでしょうか…」
俯きがちに、呟くように言って目を伏せる。慌ててフォローするように空が立ち上がった。
「あ、えっと…勿論全部とは言わないよ?ただ…えっと…」
言い淀む空を後目に、澪が陽羽の顔を覗き込む。
「君が友達に接しているように…長月にも接してあげて?そして長月が感情について聞いてきたら…教えてあげて。変に気負わなくていいからさ」
「神無月さん…」
きゅっ、と拳を握りしめて、力強く頷いた。
「…はい…!」
ところで、と澪は陽羽に詰め寄った。
「長月とはどうな訳?なんか進展あった?」
「へっ!?」
「こらこら」
結局、最後は澪にからかわれてしまったが、陽羽は心の中で決意を固めたのだった。
それはきっと、陽羽に出来る恩返しの一つだと信じて。




