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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
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第24話

竜の私室。

幸雄よりも家具の少ない部屋の端に置かれている木製の勉強机。


机に向かい合って座っている竜の表情は緊迫していて、眠そうなタレ目を細めて眉根を寄せている。


反して、竜の隣に立っている宵は、じぃっと紙の束を見つめている。提出期限が明日に迫った竜のレポートだ。


元より竜は面倒臭がりで、課題も溜め込むタイプであった。彼が高校生の時、宵は添人となり、竜を支えると誓ったと同時に彼の留年の危機を救ったのだ。


長い沈黙の後、宵はかけている眼鏡をくいっとあげて微笑んだ。


「大丈夫だと思います」


「…っはぁ〜〜〜」


長いため息。寄せていた眉根を解放して、竜は机に突っ伏した。宵はそんな竜のサラサラした髪をそっと撫でる。竜はその手を掴んで宵を見上げる。


「…魔力ちょうだい…」


「え?あー…もう一週間か」


「それとも。長月達みたいにキスする?」


いたずらでも仕掛けそうなニヤリとした笑みを浮かべる。

陽羽ならばここで赤面でもするのだろうが、宵が相手となるとそうはいかない。


はいはい、の適当にいなし、竜の手を握った。


幸雄と違い、竜の魔力のコントロールの上手さはそこそこなので、手を握るだけで魔力の譲渡が可能なのだ。


「はぁ…つまんないの」


「何言ってるんですか。二人の気にもなってあげてくださいよ…」


「はぁ?」


宵は竜の手を握る手にぎゅっ、と力を込めた。


「キスって本来、好きな人と愛を確かめるためにするものですよ?だけどあの二人は…」


まるで自分の事のように宵は悲しみを露わにする。竜はその表情を見てはぁ、とため息を吐く。


「お前…それ悲しいと思ってんの?」


「…悲しいっていうか…辛そうだなって…」


「…っははは…」


竜は心底おかしそうに笑って手を離した。宵は目を見開いて竜を見る。


「馬鹿だなぁ…くくっ…」


「ど、どういう意味ですか…?」


「…魔力の操作が下手な長月が…キスしないと魔力の譲渡が出来ない。これ、嘘だから」


「……………」


しばしの沈黙。宵はわなわなと肩を震わし、口を開いた。


「はいぃぃぃ!?!?」


「ははっ、想像通りの反応…くくっ」


またもや可笑しそうに竜は笑う。


「ど、どどどういう事ですか!?」


「…四季さん達は…長月に添人を付かせたくなかったんだよ…」


竜は机の端に置かれているペットボトルに手を伸ばす。炭酸飲料を少し流し込み、ベッドに移動する。宵もその隣に腰を下ろした。


「あいつ、訳アリじゃん?何かとさ。昔一人いたんだよ…長月利用しようとしたやつがさ」


「!」


「その時だよ。緋月さんが『長月は魔力の譲渡が下手だから、キスしないといけないの〜』って」


陽羽に説明したのは宵だが、宵は空から聞いた内容だった。


竜から聞かされた真実に、宵は戸惑いを覚えるしかなかった。


「じゃ、じゃあ…長月君は…キスしなくても魔力の譲渡を出来るって事…!?」


「正確には…師走の魔力を取り出して、液状にした物を長月に飲ませるんだ」


添人を持たない異人は基本的に、有志で得た魔力を液状にして、口から体内へ摂取する。


添人を持つ異人は手と手を触れる事で魔力を得る。


幸雄への手順としてはまぁ納得がいく、と宵はごちゃごちゃに絡まった心を溶かすように息をゆっくり吐いた。


「そっか…」


「あ、これ黙っとけよ?知ってる人少ないから」


「な、何で竜さんは知ってるんですか…?」


「盗み聞きした」


さらりと言ってのける竜に、宵は今度は呆れたため息をついた。


「一応、分かりました」


竜は宵の頭をそっと撫で、そのまま顔を自身の方へ引き寄せて唇を重ねた。


「!」


「………ふっ」


不敵に口の端を上げた竜は宵の背に腕をまわした。


「……もう…」


宵は薄くだが赤くなった頬を隠すように、竜の胸に顔を埋めた。


(長月君を利用しようとした添人候補……一体誰なんだろう…)


もやもやした疑問を抱え、宵は竜の服の裾を握り締めた。

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