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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
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第22話

(あれから何日かたったけど…人前であんなに泣くなんて…情けないなぁ…)


自己嫌悪に陥りながらも、心は幾分か軽くなっている。これも幸雄のおかげだ、と着替えながらしみじみと思う。


(今日は金曜日だから放課後は見回りか…)


予定を確認しながらダイニングへ向かう。しかし、ダイニングには誰もいなかった。


「あれ…いつもならもう何人かいるのに…」


疑問に思っていると、隣の部屋から物音がした。気になって隣の部屋を覗くと、制服を着た幸雄達がいた。

机にはノートが広げられていて、勉強していた事が窺える。


「竜さん!これ提出明日じゃないですか!」


「知らない…そんなの存在しない…」


「単位落としたらまずいって言ってたじゃないですか!」


「ぐっ」


竜と呼ばれた茶髪の男性は、宵に引っ張られて部屋を出ていった。二人の後ろ姿を一瞥してから、部屋の入り口の一番近くにいた凛子に声をかける。


「おはよう。凛子ちゃん。皆揃って何してるの?」


「あ、おはよー!プチ勉強会だよ。来週からテストだからね!」


「テストなんて滅ぶべしっス」


教科書を睨みながら蓮が呟く。向かいに座っていた、犬のぬいぐるみを大切そうに抱えていた女の子がクスクスと笑う。


幼い見た目に反して、紫のアイシャドウに赤い口紅と濃い化粧が施されていた。


「勉強なんて授業を真面目に受けていたらいいのよ。そうしたらテスト前に差程勉強しなくていいしねぇ」


「それは卯月さんだから言えるんですよー!」


凛子がむぅ、と頬を膨らませる。


「みりはご飯食べてくるね。精々頑張れ」


女の子は、陽羽を見上げて、犬のぬいぐるみを近付けた。


卯月美里うづきみり。三年よ」


陽羽よりも身長は低く、声もあどけない少女のようだった。だからこそ陽羽よりも年上という事実に驚きを隠せなかった。


「し、師走陽羽です…二年です」


「うむ。じゃあね」


美里が去ると、独特のゲームの音が聞こえてくる。幸雄、凛子、蓮と勉強している向かいで、フードを深く被った少年がゲーム機を弄っている。


蓮が教科書を睨んでいた目付きのまま、視線を少年に向けた。


「気が散るっス。水無月先輩」


「いまいいとこー。ユミちゃんからデートのお誘い来たー」


陽羽はそっとゲームの画面を覗き込む。ツインテールのふわふわとした女の子が顔を赤らめている画像が映し出されていた。


「あれ?水無月先輩ってアカリちゃん推しじゃありませんでしたっけ?」


凛子がきょとん、と首を傾げる。水無月と呼ばれたフードを深く被り、長い前髪をした少年は、視線をゲーム画面に向けたまま答えた。


「全ルート解放してフラグ回収するのは基本」


「マジですか〜テストは?」


「放棄」


強く言い切って少年は、ゲーム画面から陽羽へと視線を向ける。とはいえ、彼の目は前髪で隠れているため、本当に目が合っているのかは分からないのだが。


水無月侑みなづきゆう。推しはアカリちゃん。適当によろしくね」


「は、はい…」


「………よし、セーブ完了」


ゲーム機を、制服のズボンのポケットにしまい、侑も部屋を後にした。


「つか、問題は長月先輩っス。大丈夫ッスか?」


「………」


幸雄は静かに首を振って項垂れた。苦笑いを浮かべた二人はこぞって机の上を片付け始めた。


「失礼するっス」


「が、頑張ろうね〜…」


逃げるように去った二人に手を振り、陽羽は幸雄の隣に座った。


「長月君、勉強はどう?」


「駄目だ。訳が分からない。俺は今日死ぬかもしれない」


「勉強で死なないよ…」


問題集を覗き込む。手は付けられているようだが、ほとんどが不正解だった。


「何が出来ないの?」


「数学。それ以外はそこそこだ」


「私数学得意だよ。教えようか?」


「い、いいのか!?」


「勿論」


幸雄は陽羽の手を取った。


「ありがとう。助かる」


「い、いいよ…うん…」


朝食を済ませ、早めに学校へ向かった。


誰もいない教室で机を合わせて勉強を幸雄に教える。静かな空間に陽羽の声と文字を書く音だけが響く。


「この問題にはここの公式を使って…」


「………」


一通りの説明を終え顔を上げると、すぐ近くに幸雄の顔があった。驚いて身を引く。


「わっ…」


「…なるほど…ありがとう」


「ど、どういたしまして…」


へぇー、と二人以外の声が聞こえる。陽羽が振り向くと黄緑色のショートヘアーの女の子が立っていた。陽羽の前の席の女の子だ。

女の子は特徴的なアホ毛を揺らして笑った。


「師走さんって数学得意なんだ〜」


「そ、そこそこだけど…えっと…」


「私は宮下昼みやしたひる。気軽に呼んで」


「昼ちゃん…私も陽羽でいいよ」


「オッケー」


昼は自分の席に荷物を置いて、椅子を陽羽達の方へ向けて座った。


「私ずっと陽羽ちゃんと話したかったんだ。転校してきた時私休んでたからさ」


「たしかそうだったね…」


「すっごい美人だし、優しそうだなーって!」


「そ、そんな事は…」


褒められて嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちが同時に沸きあがる。


「あははっ、赤くなってるー!」


陽羽の頬を指先でつつき、にっこりと笑う。つられて陽羽も笑うと、それを境にしたかのようにクラスメイト達が登校してきた。


そして授業が始まる直前、幸雄は陽羽にそっと耳打ちした。


「良かったな」


「!」


それだけ言って教科書やノートを準備し始める。


(…昼ちゃん…お友達って事でいいのかな…?)


授業中にもたまに頬を緩めてしまい、集中せねば、と気を引き締める。しかし、昼の背を見てはニヤけてしまう。

それを繰り返して一日を終えてしまった。


(帰ったら私も勉強しないと…)


「じゃあ陽羽ちゃん!また月曜日に」


「うん…またね…!」


手を振って昼と別れる。幸雄も頬を緩め、荷物をまとめた。

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